ハイライズ【映画感想】人はなぜ高い所に住みたがるのか?
ハイライズ
原題:High-Rise/上映時間:119分/製作年:2015年
監督:ベン・ウィートリー
原作:J・G・バラード
出演:トム・ヒドルストン、ジェレミー・アイアンズ、シエナ・ミラー、ルーク・エバンス、エリザベス・モスなど
【あらすじ】(ネタバレ有り)
フロアごとに階級が分けられ、上層階へ行くにしたがい、富裕層となるという新築タワーマンション。このコンセプトを考案した建築家アンソニーの誘いで、マンションに住み始めた医師のロバートは、住民のワイルダーと知り合い、マンションの中で起こっている異常事態を知ることとなる。
【感想】(完全ネタバレ)
資本主義においての貧富の差を表しているとか、色々な解釈がなされている様ですが、難しくてよく分かりませんでした。すいません。
『スノーピアサー』が超長い列車内でのヒエラルキーを描いたものだとすれば、『ハイライズ』はタワー内に住む人々の階級制度みたいなものが描かれています。縦と横の違い。まだ未見の方は、こちらと比較しながら鑑賞すると面白いのではないかと思います。
スノーピアサーはかなりグロなシーンと、キョーレツに笑えるキャスティングとのギャップが特徴的ですが、ハイライズの方はグロいけど何処かゴダールっぽいおしゃれっぽさもある様な気がします。美しい・美しい・グロい・美しい・グロいの映像を繰り返され、吐きそうになる方もいらっしゃるかもしれませんので、注意が必要です。それから犬好きの者としては、犬に対しての残酷な描写などがあり、これにもかなり凹みました。
ハイライズと言っても蛭子さんが履かれている様な股上が深いズボンの事ではなく、この作品に出てくるタワーマンションの名前です。
監督はベン・ウィートリー。舞台はとある超高級タワーマンションです。主人公の医者ロバート・ラングが、このタワーハイライズの25階に引っ越してきます。ラングを演じるのはトム・ヒドルストン(冒頭からいきなりの無駄脱ぎシーン有)。
画像引用:https://ameblo.jp/irusutyuu/entry-12322156054.html
セクシーなラングはここの住民とすぐに打ち解け、パーティーなどにも参加します。この建物は超リッチで、この中にいれば困る事はほとんどないといった風。ジムやスーパーをはじめ、プールなど生活に必要な施設は完璧に揃っていると言っても良いでしょう。
相当に贅沢な暮らしをしているタワー内の人々ですが、なぜか時折見せるどんよりとしたムード。またダストシュートが狭いから大きいゴミ袋はダメとか、超肝心な所が出来ていない建物でもあります。
このタワーの設計者アンソニー・ロイヤルは最上階に住んでおり、この人の奥さんが超わがままな上に、屋上で馬にぱかぱかと乗っていたのでホント笑ってしまいました。でも屋上で乗馬が出来るぐらいの広さなので、相当にリッチですね。いつの時代?と思っていたら、この原作は1975年に発表された作品の様です。
その後この設計者ロイヤルがロボトミー手術がどうのとか言い出すのですが、それもこの時代の作品ならではないかと思います。
そしてだんだんこの建物の中にも階級があり、上の階にいく程お金持ちが住んでいる事が分かってきます。ざっくりと言ってしまえば上・中・下に分かれていて、ラングは25階に住んでいるのでこの建物の中では中流となります。
そしてある日突然停電が起こった事をきっかけに、このタワー内の見せかけだけの秩序が壊れていくという展開。停電ビフォーアフター。電気が足りなくなった際に、優先的に上のフロアに供給され、子供をたくさん抱えた下層部のフロアの人々の部屋は、電気が止まったままでした。この事にキレた下層部の人々が反逆を起こします。
このタワーマンションには、ラングの勤める大学病院の教え子であるマンローという男も住んでいます。しかし彼は親が金持ちで、ラングよりも上層の39階に住んでいたのでした。この事で嫌味を言われたラングは、大学病院でマンローにちょっとした嫌がらせをするのですが、これがかなり悪質でその事が原因で取り返しのつかない事に。
画像引用:https://www.niwaka-movie.com/archives/5009
そして一気にえええっーって展開になる所が良いです。しかも惨事が起こっているのに、一向に警察が来ない。そこでこの建物はやっぱりちょっとおかしいな、と皆が気付くという流れです。
更に3階に住むワイルダーは、テレビプロデューサーと言う職業柄、事の真相を暴こうとします。荒っぽい男ですが、ラングも言う通り彼だけは一番まとも。後の人達はラングも含めて、全然なっちゃいないのです。ちなみにワイルダーを演じるのは、ルーク・エヴァンス。個人的には彼は冷たい男の役の時が好みですが、この役も良いですね。
またスノーピアサーは列車から降りる事がほぼ不可能と思われる状況から、登場人物達が必死で降りようとするのですが、このハイライズはビルの中の住民が一向に出て行こうとしないのがポイントです。
散々な目に遭っても幼い子供がいても、この高級タワーに住んでいるプライドが出ていく事を許さない(様に見える)。もしくはこのタワー全体が社会の縮図として表わされている、という解釈も出来るかもしれません。
しかし外部から冷静に客観的な目で見れば、ある程度の金持ちなのだから、よそでそこそこ良いマンションに住めば、子供にもすぐにたくさんのご飯を食べさせてあげれる訳です。
でもここの人達はおそらくこのタワー内の住民である事に執着してしまっているので、絶対に出ていかないでしょう。スーパーマーケットの食糧が全て無くなっても、何日も風呂に入れなくても出て行かないですよきっと(笑)。設計者のアンソニー・ロイヤルの思うツボなのでしょう。
客観的に鑑賞者として観ていると、バカだなぁと思う事でも、案外この手の事は当該者になってしまえば、周りが見えなくなるのかなとも思います。そこが怖い。その不気味な感じが、上手く描かれていると思います。
また高い所に住めば必ずしも良いという訳ではない、という教訓でもあると思いました。足りない食糧、なぜかたくさんある酒とたばこ。この作品の中の人々は実によくたばこを吸うのですが、これも70’のムードが出ていて良かったと思います。
それからラングがペンキを塗るシーン。これはやはりゴダールっぽいなとも思ったのですが、不覚にも20代の頃に観たシクロという超トラウマ映画を思い出してしまいました。
画像引用:http://kmot.blog9.fc2.com/blog-entry-322.html
プレゼントでしつこく嫌がらせ【ザ・ギフト】映画感想
ザ・ギフト
原題:The Gift/上映時間:108分/製作年:2015年
監督:ジョエル・エドガートン
脚本:ジョエル・エドガートン
出演:ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール、ジョエル・エドガートン
【あらすじ】
シカゴからカリフォルニア州郊外に引っ越し、新生活をスタートさせた夫婦サイモンとロビン。夫の仕事も順調で幸せいっぱいの2人はある日、サイモンの高校時代の同級生だというゴードと出会う。すっかり忘れていたサイモンだったが、ゴードは旧友との25年ぶりの再会を喜び、さっそく2人にワインのプレゼントを贈る。その後もゴードからの贈り物が次々と届くようになり、次第に彼の真意を測りかねて困惑していくサイモンとロビンだったが…。
【感想】ネタバレ有り
スリラー映画で内容は濃いですが、グロ描写がほとんど無いので、エグイ描写が苦手な方にもおすすめです。
ガラス張りの無防備な家、突然現れる学生時代の同級生ゴード、玄関先に断りもなしに置かれた贈り物のワイン。この作品はずっと子供を欲しがっている若い夫婦サイモンとロビンが、郊外の一軒家に引っ越してくる所から始まります。
サイモンとロビンがおしゃれな家具屋で買い物をしていると、昔の同級生ゴードに再会してしまいます。これが悪夢の始まりですね。
住所を教えてもいないのに、ギフトを贈ってこられるのって、それだけで充分不気味だと思います。その上敷地内の庭の池に、勝手に鯉まで放された日には大きなお世話もいいとこですね(笑)。これでは気味が悪いだけでなく、全く常識が無い人だなと思われても仕方がありません。ゴードはただ単に他人との距離が上手く掴めない人なのかなと思いきや、実はそうではなかったのが本作の面白い所。
画像引用:http://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA0000R7R42
そこには最初から明らかに復讐の意図があった訳で、徐々にその真実みたいなものが明かされていきます。実は旦那であるサイモンの方が、トンデモ野郎であった事が判明していくくだりは、鑑賞していてもギョッとしました。
しかし客観的に見て、復讐とは言ってもゴードンの嫌がらせはどんどんエスカレートしていき、それはそれでどうなのかなと。サイモンがサイモンなら、ゴードもゴード。妻のロビンが、気の毒でなりませんでした。
画像引用:http://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA0000R7R42
特に最終的に時間を掛けて仕込まれたビッグプレゼントに、凹まない人はいないでしょう。ギフトがこんなに人にダメージを与えるとは知りませんでした。その上、実は貰ったのか、貰わなかったのかが分からないなんて、ありえない。後味が悪過ぎます。
本作は脚本・監督共にゴードン役俳優のジョエル・エドガートンが手掛けていますが、よくこんな気味の悪いオチを考える事が出来たなと感動しました。低予算で制作されている様ですが、全然安っぽくない良作だと思います。
2016年に公開された作品ですが、公式サイトに寄せられた著名な方のコメントのリンクです。↓
バレット【映画感想】ネタバレ有り
バレット
原題:Bullet to the Head/上映時間:92分/製作年:2012年
監督:ウォルター・ヒル
脚本:アレッサンドロ・ケイモン
出演:シルヴェスター・スタローン、サン・カン、サラ・シャヒ、アドウェール・アキノエ=アグバエ、クリスチャン・スレイター、ジェイソン・モモア
【あらすじ】
海兵隊員から闇の世界に身を落とし、殺し屋を生業としてきたジミー・ボノモ(シルヴェスター・スタローン)。逮捕されること26回、有罪となること2回。力を頼りに生きてきた彼が唯一心を許していた相棒の復讐をするために、まだ若く頑なに己の正義を貫く刑事のテイラー(サン・カン)とタッグを組むことにする。殺し屋と刑事という異色な組み合わせの前に、警察やマフィアといった街のありとあらゆる組織が立ちはだかり、さらには怪物的な凶暴性を持つヒットマン、キーガン(ジェイソン・モモア)が待ち構えていた……。
【感想】
なぜ今このタイミングでバレットなのかは、説明すると長くなるので割愛させて頂きます。
出演はシルヴェスター・スタローンと、ワイルド・スピードシリーズのサン・カン。この作品は映画の始まり方が、スタイリッシュで良いと思いました。刑事と犯罪者がコンビを組み凶悪な組織に立ち向かうストーリーは元々好みですが、スタローン+サン・カンというキャスティングが更に魅力です。
作品自体は全体的に、80年代のアクション映画風。しかし圧倒的にタフな犯罪者であるジミーに対し、刑事のテイラーは携帯で何でも調べる今時の若者みたいな所が良いですね。
画像引用:Bullet to the Head | Paragraph Film Reviews
80年代の映画を決して肯定する訳ではないのに、この様なアクション映画を見つけるとほぼ本能的に反応してしまうのが、多感な時期に『48時間』や『ダイ・ハード』を観てきた事実が反映する悲しい性でもあります。
しかしストーリーが始まってすぐに、スタローン演じるこのジミーという男には感情移入出来ないなと思ったので、サン・カンの演じるテイラーという警察官の方に感情を移入しました。
本作は1時間半という短い尺の中に、仮装パーティーや派手な爆破シーン、斧を用いた格闘アクションなどもあり最高です。しかし仮装パーティーの時にジミーが付けている仮面に関して言えば、もうちょっと良いデザインのものが無かったのかなと思いました(笑)。もしくは、あの仮面に何か意味があるのですかね。
個人的にはサン・カンのアクションがもっと観たかった気もしますが、ド派手なシーンが多く最後まで退屈せずに鑑賞する事が出来ました。
画像引用:http://collider.com/sarah-shahi-bullet-to-the-head-interview/
ジミーはテイラーに俺のルールと、お前のルールは違うと言います。しかしやり過ぎジミーには、半ば呆れ気味になりました。ジミー宅で、悪い弁護士マーカスに拷問をかけるシーンにはドン引き。ちなみにマーカス役はクリスチャン・スレイターですが、彼がこの様な役で登場するとは!テイラーがジミーに「簡単に人を殺すな!」と忠告しますが、全くこの意見に賛成です。
その上自宅を襲撃されたら水中に潜ってテイラーと共に逃げ、リモコンであっさりと自宅を爆破。この大味さにどこか懐かしさを感じ、良いなと思いました。いつ準備をしたのかと言いたくなりますが、ジミーの家が燃えるのを呆然として、見ているテイラーの姿がカッコ良かったです。
画像引用:https://www.huffingtonpost.com/mike-ryan/bullet-to-the-head-sequel_b_2601254.html
物語の終盤ではテイラーにもう一撃くらわす事で、話の辻褄を合わせようとするジミー。人様を撃っておいて「礼はいい」と得意げに言うジミー。バーで「おととい来やがれ」と、ほとんど死語の台詞を吐き捨てるジミー。最終的には、完全にジミーのペースに呑まれてしまい、やっぱりスタローンはカッコイイ!となってしまうストーリーには脱帽です。
ライアン・ジョンソン監督のタイムループもの【LOOPER/ルーパー】映画感想
LOOPER/ルーパー
原題:Looper/上映時間:118分/製作年:2012年
監督:ライアン・ジョンソン
脚本:ライアン・ジョンソン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ブルース・ウィリス、エミリー・ブラント、ポール・ダノ、ピアース・ガニォン、シュイ・チン
あらすじ【ネタバレあり】
2074年の世界ではタイムマシンが開発されていたが、その使用は法律で固く禁じられていた。しかし、犯罪組織は違法なタイムマシンを利用し殺人を行っている。なぜなら、その時代にはすべての人間の体内にマイクロマシンが埋め込まれ、殺人が事実上不可能になっていたのだ。そのため、彼らはタイムマシンで標的を30年前に送り、待ち構えている処刑人“ルーパー”に殺害を実行させていた。2044年、ルーパーとして30年後の未来から送られてくる標的の殺害を請け負っていた男ジョー。ある時、そんなジョーの前に標的として現われたのは、なんと30年後の自分だった。一瞬の隙が生まれ、未来の自分に逃げられてしまう現代のジョー。ルーパーは処刑を失敗すれば、即座に犯罪組織に消されてしまう運命だった。現代のジョーは、処刑を完遂すべく、すぐさま未来の自分の追跡を開始するのだが…。
この映画を鑑賞したのは随分前の事ですが、冒頭シーンを観た時のショックと後味の悪さは今でも忘れられません。それでも映画を全て鑑賞し終わった後の気分は幾分すがすがしく、このSF映画のスタイルに何か可能性を感じました。
監督はライアン・ジョンソン。2017年12月15日(金)から全国公開される『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の監督を務めています。ちなみにジョセフ・ゴードン=レヴィットは『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に、エイリアンの声でカメオ出演している様です。
また日本のファンのためだけ新情報を教えてくださいと聞かれると「プロデューサーに目をやったけどダメって言っているね(笑)でもこれならいいかな。僕と仲が良い『LOOPER/ルーパー』にも出演してくれたジョゼフ・ゴードン=レヴィットがエイリアンの声でカメオ出演しているよ」と、話せないことが多い中、ハリウッドスターのカメオ出演について貴重な情報を教えてくれました!
ライアン・ジョンソン監督が日本のファンのために世界に先駆け来日!最新作は「死んじゃうかもしれない…」ほどの衝撃と監督が断言!!|ニュース|スター・ウォーズ/最後のジェダイ | スター・ウォーズ公式
感想【ネタバレ全開】
舞台は2044年と割と近い未来。TKと呼ばれる特殊な能力を持った人々が、数パーセント程存在する事が確認されています。
更に2044年には【ルーパー】と呼ばれる職業の人達がいます。この人達は30年後の犯罪組織と契約しており、2074年からタイムマシンで転送されてきた標的を射殺する事を生業としています。標的とは、2074年の犯罪組織から送られてきた人。2074年には一人一人にマイクロマシンというものが埋め込まれていて、殺人が出来ないシステムになっています。
主人公の男ジョーもそんなルーパーの内の1人。2044年のヤングジョーを演じるのは、ジョセフ・ゴードン=レヴィット。そしてその30年後のオールドジョーを演じるのは、『ダイ・ハード』『パルプ・フィクション』などでおなじみのブルース・ウィリス。この二人が同一人物だというやや無理のある設定から、物語はスタートします。
冒頭のショッキングなシーンの後はサイバーパンクな近未来の描写を追うのに必死で、しばらくの間は気分が高揚しました。更にこの辺りでポール・ダノも登場。ジョーの友人セスの役で出て来ます。しかしセスはルーパー達の宿命である【ループを閉じる】という行為に失敗。これによりあっさり殺されてしまいます。(出番が少な過ぎるポール・ダノ・・・)
またルーパー達は皆ラッパ銃を与えられているのですが、この銃の形が不気味に見える&ルーパーの肩身の狭さを物語っているなと思いました。(勝手に)
この映画にはサイバーパンクなディストピア未来都市とは対照的に、背の高い【さとうきび畑】ののんびりした風景が映し出されるのが印象的です。
※画像は劇中の物ではなくイメージです。
『LOOPER/ルーパー』が他のSF作品と違うなと感じられたのは、オールド―・ジョーであるブルースウィリスがちゃぶ台をひっくり返す様な事を言う所から。レストランでヤング・ジョーとオールド・ジョーは、向かい合って会話をしています。そこでいきなり「タイムトラベルの話は、ややこしくて長くなるからしたくない!」的な事を言ってキレだすオールド・ジョー。以後サトウキビ畑の傍に住む親子とヤングジョーの愛の話になっていくのですが、「えーこれって恋愛映画なの?」って若干動揺。
ストーリーの後半ヤング・ジョーは、怖ろしい程の超能力の持ち主の子供シドとシングルマザーのサラをどうにか守ろうとします。
この作品に対しての評判は賛否両論ある様ですね。確かにSF作品としては物語の中の辻褄が合ってないとも言えなくはないし、そもそもルーパーが30年後には殺されるとしても、ループを閉じる行為をなぜ本人がする必要があるのか?など疑問点も多いです。ただこの作品は、そこをあれこれ言う類の物ではないかなと私は思います。
余談ですがライアン・ジョンソン監督は『LOOPER/ルーパー』 を制作するにあたって、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』から影響を受けたと言っている様です。その件については映画評論家の町山智浩さんが、この作品のパンフレットやブログに書かれているみたいですね。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』!20年ぐらい前に読んで、今も手元にありますが、これを読み返すとまたややこしい気分になりそうですね。うろ覚えですが黄金の毛を持つたくさんの獣と、サトウキビ畑が重なって見えてきました(笑)。
とりあえずタフでわがままなオールドジョーと、勇気ある行動に出たヤングジョーとの対比が良かったです。
ライアン・ジョンソンの最新監督作品『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の予告動画はこちら
【メトロ42】迫力ある映像と濃いめの群像劇/映画感想
メトロ42
原題:METRO/上映時間:132分/製作年:2012年
監督:アントン・メゲルディチェフ
出演:セルゲイ・プスケパリス、アナトリー・ビェリー、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、アンフィサ・ヴィスティンガウゼン、アレクセイ・バルドゥコフ、カテリーナ・シュピツァ、ヤロスラフ・ザルニン
【あらすじ】
道路工事ラッシュが続く大都市モスクワでは、振動の影響により各所で地下水が漏れはじめていた。そんなある日、妻の浮気に悩む医師アンドレイは、幼い娘クシューシャを連れて地下鉄に乗る。同じ車両には、偶然にも妻の浮気相手ブラトが乗りあわせていた。やがて、運転手が前方から大量の水が押しよせてくるのに気づき急停止。乗客たちがパニックに陥る中、車両は一気に濁流に飲まれてしまう。生き残ったアンドレイとブラトは、クシューシャを守るべく力をあわせて地上への脱出を図る。
【感想】完全ネタバレ
ケーブルテレビのオンデマンドで無料で観る事が出来たので、鑑賞してみました。
乗り物パニックは群像劇とセットみたいになっている事が多いので、見つけると必ず観る様にしています。この映画も御多分に漏れず地下鉄の中にたまたま乗り合わせた、普段は全く接点のない人々の群像劇が描かれていて大変満足です。ただ『メトロ42』の場合は登場人物の抱えている問題や背景のディティールが細かすぎて、途中どろどろした濃いドラマが発生する所がちょっと他の作品とは違うかなと思いました。
ほとんど予備知識を持たずに鑑賞したのですが、映画が始まってから割とすぐに不覚の事態に陥ってしまいびっくり。『大空港』や『サブウェイ・パニック』の様ななるだけ乗客に負傷者を出さずに、ハラハラさせられ無事到着してハッピーエンドみたいなパターンではなく、ある1部の人達にスポットをあてて描かれています。よって構成としては、ポセイドンアドベンチャーに近いかなと思いました。
舞台はロシアの大都市モスクワ。最初に地下鉄のトンネル内から水が漏れているのを、ベテランの地下鉄整備員が発見するのですが、その人がアル中気味だった事もあり報告が無視されてしまいます。このおじさん、確かに酒浸りではあるけど一応責任感はあると思うんです。しかしこの重要な報告を軽視するバカ職員がいたせいで、事態はとんでもない事に・・・・。
列車が急ブレーキをかけるシーンの描写は凄まじく、かなりショックでした。スローシーンで本当にシャレにならない程の映像表現でしたが、技術的には相当なものだと感じました。しかし早くもここで多くの被害者が出てしまい、まあ映画の中の話ですがちょっとテンションが落ちました。これでスチュワーデスが1名骨折したが、全員助かりました的なストーリーはもうないなと・・・。
またこの作品には酷く渋滞している道路が、何度もスクリーンに映し出されます。そしてその渋滞を緩和する為なのか、あちこちで工事が行われています。トンネルに水が漏れ始めたのは、どうもこの工事の振動の影響の様なのです。
また更に、地下鉄から降りた乗客が大勢でゾンビみたいに歩いて駅まで辿り付くシーンがあるのですが、ここで元々駅にいた乗客達も事の重大さが分かり大パニックに。その駅でのパニックシーンの描写がこれまた凄いです。
ストーリーの後半は、主に地下鉄の車両から逃げ遅れた6人(最初は7人)と犬1匹の脱出劇になっていきます。主人公アンドレイらは娘であるクシューシャを連れ、水浸しになった地下鉄のトンネル内を歩いて行きます。更にアンドレイの妻の不倫相手ヴラト(ダニエル・クレイグ似イケメン)も、何故かこのメンバーの中に入っており互いに協力せざるを得ない状況に・・・。また喘息持ちの若い女の子や、彼女を口説こうとする青年などと合流し、皆で協力して脱出を図ります。
アンドレイの奥さんイリーナ(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)は、夫にも娘にも電話が繋がらないので変だなと気付き始めます。そしてテレビのニュースで地下鉄の事故の事を知り、腰を抜かしそうになるイリーナ。しかしこの時のイリーナのセリフには、おやっと思いました。字幕で「こんな事願ってない」「私は望んでない」とか繰り返し言うのですが、何だか直訳過ぎないかなと(笑)。でもこの国の言葉が分からないので、何とも言えません。
前半は迫力あるシーンも多く見応えがあるのですが、後半はやや間延びした印象を受けました。特にストーリーの終盤あたりでは、以下の流れが繰り返されます。
所々に挿入される濃い人間ドラマでちょっとテンションが落ちる。
↓
そうこうしていると、脱出成功の兆しが出てきて少し見入る。
↓
あともう少しで助かりそうという時に、また何か問題が発生して脱出失敗。
これが何度も繰り返されるので「早く逃げ切ってくれ!」と心の中で叫びました。個人的な感想としては最初に元防空壕の穴から地上が見えた時に脱出、そしてエンドでも良かったのではないか?と思ったぐらいです。
またこのタイミングで、主人公アンドレイと妻の浮気相手ヴラトの取っ組み合いの喧嘩が始まってしまい、もうそんな元気ないやろ!と笑ってしまいました。
全体的な画作りとか最初の急ブレーキのスローモーションなど気合入ってるなぁと思っていたら、ロシアでは25年ぶりのパニック映画だそうです。長さ117mの巨大なセットや大勢のエキストラで、おどろおどろしい映像表現がなされていて圧倒されました。
しかしメイキング映像を観ると、皆で楽しそうにロケしています。
こちらのリンク先のページ内にメイキング映像があります。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
ドゥニ・ビルヌーブ監督の傑作!複製された男
複製された男
- 監督:ドゥニ・ビルヌーブ
- 原作:ジョゼ・サラマーゴ
- 脚本:ハビエル・グヨン
- 出演:ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン、サラ・ガドン、イザベラ・ロッセリーニ他
【あらすじ】一部ネタバレあり
大学で歴史を教えているアダム(ジェイク・ギレンホール)は、ある日同僚に何気に映画を薦められる。普段は映画など観ないアダムであるが、早速レンタルショップでレンタル。自宅にて鑑賞していると、自分とそっくりの役者が脇役で出演していた。彼は何者なのか?エンドクレジットの名前からネットで検索し、彼の事務所を訪ねてみると・・・。
【感想】完全にネタバレします
ドゥニ・ビルヌーブ監督の『メッセージ』を観てない。これだけは観なきゃダメだってわかっていた筈なのに何で?と自分を責め続ける日々でした。今後ブレードランナー、デューン砂の惑星と続くSF作品の大切なワンステップでもあるのに、・・・・・。
そしてそうこうしている内に・・・。
もうすぐブレードランナー2049がやってくる・・・。
ブレードランナー2049がやってくる・・・。
ブレードランナーがやってくる・・・。
確か18才の時レンタルビデオ屋で借りてきたブレードランナーを、こっそり1人で鑑賞した時の感動は忘れられません。リドリー・スコットはやっぱ天才。
そしてビルヌーブさんにも今回の『ブレードランナー2049』絶対に見逃さないぞ!と誓っております。誓わなくてもまぁ、間違いなく行きます。
そんな事もあってか、やや無理やりですが今回はドゥニ・ビルヌーブ監督の『複製された男』の映画感想です。
この作品についても過去に何度も書こうと思ったのに、うまく書けませんでした。多分ちゃんと分かってないから(自分の中で上手く解釈出来ていないから)書けないのでしょう。町山智浩さんの「映画ムダ話」を聞けば一発で解決するのは分かっているのですが、そればかりしてしまっては、自分で考えなくなる様な気がして怖いのです。そこでトンチンカンでも良いので自分自身で解釈してみて、後で答え合わせをしようかなと思います。一応YOUTUBEのサンプルの所まで聞いて(セコイ・・)、後は自分で考えてみようと思った訳です。
でもこの映画は解釈が人によって随分違う様ですね。何かIQを試されている様でもありちょっと嫌です(笑)。おそらくかなり見当違いな映画感想になるかと思いますが、ご了承ください。
出演は「ミッション: 8ミニッツ」のジェイク・ギレンホール。彼女役で「イングロリアス・バスターズ」のメラニー・ロランが出演しています。
超初歩的な事ですが、観ていて思ったのが「コレってSFじゃなくてミステリーなの?」って事です。ドッペルゲンガー系=SFかホラーと思い込んでいた私としては、そこがうっかりポイントでした。でも大きな蜘蛛の登場とかやっぱSFっぽいですね。この作品を鑑賞後どうも、もやもやしているのはそこなのです。ジャンルが分かりづらい・・・。色んな映画紹介で「ミステリー」とか「サスペンス」とか書かれていますが、本当なのかなって気分にさせられます。
そもそも皆さんがこの映画に対して「さっぱり分からない」とか「全然分からない」と言われていますが、私にとっては「何が分からないのか?すらも分からない」です。自分は、一体何を分かろうとしているのか?がよく分からない(笑)。そこがモヤモヤする2つ目のポイントです。
またこの作品において多くの人に語られている
「 アダムとアンソニーは同一人物である」は正しいか?
についてちょっと考えてみたいと思います。
仮にアダムとアンソニーが同一人物だったと考え、その名前をアダムアンソニーとして観てみる事にします。
アダムアンソニーは大学講師で歴史を教えている。いつ頃からやり出したのかは不明。
アダムアンソニーには、メアリーという彼女がいる。
アダムアンソニーは、三流役者なのにその割にいい所に住んでいる。
アダムアンソニーは、事務所のガードマンから「やあ久しぶり」と言われる事を考えると、しばらく役者の仕事をしていない。(おそらく6ヶ月)。
ビデオに映ったアダムアンソニーには確か髭が生えていない。ガードマンの人に「髭伸びたね」って言われる。
アダムアンソニーには奥さんもいて、妊娠6ヶ月。
アダムアンソニーには彼女と過ごす部屋がある。
妻は、大学に勤めているアダムアンソニーと出会い驚く。
要は、虚構(嘘)が生み出した人格が一人歩きしてしまった的な話では?と思ったのです。これは不倫をしてしまった男の人のお話ではないかと・・・。アダムアンソニーは、奥さんに子供が出来た事を機にしっかりせねばと思い大学で働き始めるが、その事にストレスを感じ上手く受け入れられない。そこで愛人(メラニー・ロラン)を作ってしまう。では虚構とは?それは奥さんが妊娠しているにも拘らずプラプラしているアンソニーの存在で、これは実はアダムの願望なのではないかと思うのです。現実には世間から認められるまっとうな道を歩き始めたのですが、その事が自分で認められないので、奥さんには大学で働いている事を隠してしまう(のではないか・・・と?)。
またアダムが独りで住んでいる部屋は実は隠れ家であり、そこで愛人と会っているという捉え方も出来なくはないですね。奥さんが大学でアダムを見かけた時、びっくりしていたのは役者だと思っていた夫が大学教授だったから。奥さんは夫に自分の知らない側面がある事は信じられないし怖いので、夫とそっくりな人を観たと思い込んだ。
アダムとアンソニーが一緒にスクリーンに登場するのはほんのわずかであり、その時に第三者が立ち合わせているシーンは確かほとんどありませんでした。つまりは同時に二人を観ている客観的な視点から物語は描かれていない、ので2人の人物が存在する事を証明するのは難しいのではないか?と思うのです。
また同じ位置に古傷があるのをアダムとアンソニーが見せ合っているので、彼らが双子である可能性も低いと思います。アンソニーが死んでアダムが生き残るのは、過去の自分との決別し大人になる過程の映像的な表現。そして何かが生まれ変わった様な気がしたのだけど、今度はシャワールームにいる妻が蜘蛛に見えてうんざりする。エンド。
結果やや無理やりですが、アダムとアンソニーは同一人物であるという結論に辿り着きました。よって厳密に言えばどっちが本当の存在だ、とかないのだと私は思います。
いやー、しかし鑑賞前に『決死圏SOS宇宙船』の様なモロなSFを期待していた私としては、やや困惑する所でした。みんなが何であそこに蜘蛛が現れるのか?とか、それはどういう意味か?とか言っているなと思っていたらこの始末です。
またこの映画を鑑賞して思ったのは、いつもなんらかの情報を得て先入観を持って、映画を鑑賞するしているという事です。例えば一枚のチラシから受ける印象や、予告編、そのキャッチコピー、そして映画のタイトルなど。私はおそらくこの『複製された男』というタイトルからSF映画を想像したのだと思います。原題の『Enemy』は敵という意味です。以後、原題は要チェックだなと思いました。
ところで町山智浩さんが「映画ムダ話」のYOUTUBEのサンプルで『複製された男』は、古くからたくさん作られているドッペルゲンガーものの型から外れていないと話されていました。が、その作品とは一体何なのでしょう?何の映画なのかを勝手に想像してみた所思いついたのは「ジキル&ハイド」、「仮面ペルソナ」「プラーグの大学生(1913)」あたりでした。ただこればっかりは、「映画ムダ話」を購入しない事には分かりませんね(笑)。
いつかまた再度鑑賞して、「答え合わせ編」をしたいと思います。