アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

スキャナー・ダークリー【映画感想】鑑賞後、心の霧が晴れないのはなぜか?

スキャナー・ダークリー

スキャナー・ダークリー (字幕版)

原題:A Scanner Darkly/上映時間:100分/製作年:2006年

監督:リチャード・リンクレイター

原作:フィリップ・K・ディック

脚本:リチャード・リンクレイター

出演:キアヌ・リーブスロバート・ダウニー・Jrウィノナ・ライダーウディ・ハレルソン、ロリー・コクレーン

 

ご無沙汰しております。この間2月だと思っていたのに、はや12月。この間12月1日だったのに、また更に1週間も経っている事実に驚愕しております。かと言って、映画を観ていないわけでもボーっとしていたわけでもなく、ただ単にブログを更新する余裕がなかったのですけどね。12月は書き溜めたブログなんかも含めて、バンバンアップするぞ!(あくまで目標...です)

 

スキャナー・ダークリーあらすじ】ネタバレあり


A Scanner Darkly - Original Theatrical Trailer

主人公ボブの友達フレック(ロリー・コクレーン)は、体中に這い回る奇妙な虫に悩まされます。フレックは友人のバリス(ロバート・ダウニー・Jr)に電話を掛け、「アリマキに襲われている」と助けを求めるのでした。バリスはとりあえず落ち着けと言い、なじみの店でフレックと会う約束をします。フレックは彼に見せる為虫を小瓶に入れ持っていきますが、移動中車の中で見ると、虫は消えていました。

 

レストランでバリスに会ったフレックは、それは物質Dの使用から起こる幻覚だよと言われてしまいます。近未来アメリカのアナハイムでは、物質Dというたちの悪い薬物が氾濫し、人々を悩ませていました。主人公のボブ(キアヌ・リーブス)は警察に勤め、麻薬取締おとり捜査官として働いています。ただし彼の名前はボブではなく、フレッド。皆互いのプライベートが分からないように、コードネームを使っているのでした。

 

更に驚くべきことに捜査官らは皆スクランブルスーツという、謎のスーツを着用しています。このスーツを着ると、150万人もの人々の顔データや衣類データがチラチラとカメレオンのように切り替わり、一体彼が何者なのか全く分からなくなるのでした。一方フレッドはプライベート、即ちボブでいる時は同居人らとDをやりまくります。麻薬取締おとり捜査官は、もともと物質Dの使用者であることが多いのでした。彼はある日上司から、ボブ(即ち自分自身)の監視を命じられますが・・・。

 

スキャナー・ダークリー】ディック原作映画の中でのポジションは?

スキャナー・ダークリー』の原作は、1977年のフィリップ・k・ディックSF小説『暗闇のスキャナー』です。なぜ今ディックなのか?ディック原作映画が今後増えていく気がするから...。というよりは希望ですね。ここでディック原作の映画を、ざっとあげてみます。

 原作:アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:238人

ファイナルカット:84人、ディレクターズカット<最終版>:57人)

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):14,957人

ファイナルカット:19,566人、ディレクターズカット<最終版>:3,117人)

 

 原作:追憶売ります(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:194人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):12,560人

・バルジョーでいこう!(1992年)ジェローム・ボアヴァン監督

 原作:戦争が終わり、世界の終わりが始まった

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:なし

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):7人

スクリーマーズ(1995年)クリスチャン・デュゲイ監督

 原作:変種第二号(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:19人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):268人

・クローン(2001年)ゲイリー・フレダー監督

 原作:にせもの(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:46人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):332人

 原作:少数報告(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:475人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):33,167人

 原作:報酬(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:138人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):3,897人

 原作:暗闇のスキャナー

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:11人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):1,606人

・NEXT -ネクスト-(2007年)リー・タマホリ監督

 原作:ゴールデン・マン(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:93人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):6,861人

・アジャストメント(2011年)ジョージ・ノルフィ監督

 原作:調整班(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:46人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):7,902人

 原作:追憶売ります(短編小説)

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:69人

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):13,026人

・Radio Free Albemuth【邦題なし】(2010年)ジョン・アラン・サイモン監督

 原作:Radio Free Albemuth

 みんなのシネマレヴューのレヴュー数:なし

 Filmarksの目のマーク(観たよのマーク&レビュー):なし

※レビュー情報は、2019年12月現在のものです。

 

なぜレビュー数を調べようと思ったのかと言いますと、ディック原作映画の中で自分が人気作だと思っているものと、実際とでは違っているかも?とふと思ったからです。しかしレビュー数からみてもやはり『ブレードランナー』、『トータル・リコール』、『マイノリティ・リポート』あたりがメジャーであり多くの方に観られています。これは、思っていた通りでした。

 

この中で鑑賞後、個人的にあいたたた・・・と思ったのは、やはりニコラス・ケイジ主演の『NEXT -ネクスト-』あたりです(笑)。またマット・デイモン主演の『アジャストメント』もあまり評判はよろしくないようですが、こちらは結構好みの映画でした。『クローン』は46人332人のレビュー数ですが、かなり面白かったと記憶しています。もっと、多くの方に観て頂きたい。

 

2010年の『Radio Free Albemuth』は、ディストピア小説を元に製作されたようで面白そうなのですが、日本語訳されていないようですね。一応予告を貼っておきます。


RADIO FREE ALBEMUTH OFFICIAL MAIN TRAILER (2014)

 

その中で何とスキャナー・ダークリー』は、みんなのシネマでは10人ぐらいからしかレビューが書かれていない(汗)。「この映画ってもっと話題になった気がするなぁ」とか思います。監督を『ビフォア三部作』や『6才のボクが、大人になるまで。』で知られるリチャード・リンクレイターが務めていらっしゃるのも、面白い現象ですね。

スキャナー・ダークリー】のジャンキーな登場人物たち★ネタバレ

自分だけかも知れませんが、登場人物が少ないわりに把握しにくかったです。アニメーションと実写が入り混じる映像から、誰が誰なのか?分かりにくいのかも?

「キーッ!>_<」っとならないために、人物紹介いたします。

フレッド/ボブ・アークター(演:キアヌ・リーブス

f:id:analogchan:20191208085313j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/A-Scanner-Darkly-11803178355/

 この映画の主人公で、物質Dの常用者。以前は家庭を持ち妻子と暮らしていた家を、ジャンキー仲間の住家として提供し、共に暮らしている。また彼は覆面麻薬捜査官であり、その時のコード―ネームはフレッド。

ジム・バリス(演:ロバート・ダウニー・Jr

f:id:analogchan:20191208085951j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/A-Scanner-Darkly-11803178355/

ボブの同居人であり、同じく物質Dの常用者。何を考えているのかよく分からない人物だが、ボブが捜査官であることに薄々感づいている。頭が良く切れ者に見えるが、「日焼け止めのスプレーからコカインを作ることができる」などと言い出したりして、相当なジャンキーである。警察に自ら出向き仲間を密告したのちおとり捜査官に立候補するも、あっさり断られ相手にされない。

チャールズ・フレック(演:ロリー・コクレーン)

f:id:analogchan:20191208090011j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/A-Scanner-Darkly-11803178355/

冒頭から薬物常用者であることが、一目瞭然である。彼は「ニュー・パス」という物質Dからの更生施設で、療養を受けることまで考えていた。ボブの家には住んでおらず自分の家があるが、逆にこんな人を1人で住まわせておくのは危険と思わせるほど重症のジャンキー。

ドナ・ホーソーン(演:ウィノナ・ライダー

ボブが密かに思いを寄せている女性で、ボブの恋人のような存在。Dを使用しながら、マリファナの常用者でもある。ストーリー終盤になって正体が分かる。

アーニー・ラックマン(演:ウディ・ハレルソン

ボブの同居人の1人。キッチンで死にかけているところ、バリスからの無視攻撃を食らうが何とか生き延びた。この作品では若干影が薄いが、演じているのはウディ・ハレルソンハレルソンはこの役で第29回スティンカーズ最悪映画賞の「最悪の助演男優」部門にノミネートされたが、惜しくも受賞を逃した。

 

スキャナー・ダークリー】個人的に面白いと思ったポイント

f:id:analogchan:20191208153844j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/A-Scanner-Darkly-11803178355/

1.監視社会の恐ろしさが描かれている

麻薬を取引している可能性が高いから部屋に勝手に監視カメラを付けて良いという、未来の警察の言い分があんまりすぎる。そんなこと言ったら、「あの人は自室で何をするか分からないから、監視します」みたいなことになって、これはまさにジョージ・オーウェルの『1984』とかの世界ですね。しかしこれが当たり前になってしまうと、人々はもはや文句を言わないのかもと...。そこが怖いです。

 

スキャナー・ダークリー』では警察所で働くフレッドのデスクに、モニターが6こぐらいあって怪しいと思われる人物を終始監視しているわけです。こういうのはSF映画にはつきものですが、プライバシーもなにもあったもんじゃない。現実的に考えるとゾッとしますね。

 

2.主人公ボブの地獄のような二重生活

 主人公のボブは覆面麻薬捜査官。キアヌは、随分昔『ハートブルー』という映画でもおとり捜査官の役をしていました(FBI捜査官であることを忘れ、サーフィンやダイビングにすっかり夢中になるおっちょこちょいな若者役)。

 

しかしこのボブがフレッドという偽名で出勤し、上司から「あのボブ・アークターって奴を監視しろ」と命令されます。日頃ボブは、居候のジャンキーな同居人たちと物質Dを好きなだけやっている訳ですから、それはもうヒヤヒヤです。

 

その上己自身を観察しているもので、だんだんアイデンティティが崩壊していく始末。おまけに同居人バリスの非情な部分も見てしまいます。バリスは仲間が自分のすぐ横で死にかけているのに、助けようともしませんでした。ボブの周りでは頭の良さそうなバリスですが、案外警察側からは相手にされない間抜けな側面も持っています。

3.ロトスコープを使用した不思議な映像表現

これは個人的な好みとなりますが、アニメーションと実写が混ざった映画が結構好きです。例えば『メリー・ポピンズ』とか、ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』とか、『スペース・ジャム』とか、『ウォーリー』とかも良いですね。

 

ルーニー・テューンズ バック・イン・アクション [DVD]

ルーニー・テューンズ バック・イン・アクション [DVD]

 
スペース・ジャム [DVD]

スペース・ジャム [DVD]

 

 で、この作品ではロトスコープという技術が使われています。これはあらかじめキアヌやロバート・ダウニー・Jrを撮影したのち、それにいちいちアニメーションを上書きするといった、非常に手の込んだ技法なのです。実写とアニメを行き来する映像表現は、薬物常用者が現実と幻覚の間をさまよう感じを表現しているのだとか。観ていて不安な気分にさせられるのは、このロトスコープによるものだと考えられます。

4.ストーリー終盤で明かされる衝撃の事実【超ネタバレ】

終盤に2段階でどんでん返しがあるのが痛快です。まず1つめは、ボブの意中の彼女ドナが、彼の直属の上司であったという事実。上司=男性と思い込んでいたので、盲点を突かれた感じでした。更には物質Dの更生施設であったはずの「ニュー・パス」で、Dの原料となる青い花を育てていたという事実。どおりで、警察が立ち入り禁止なわけです。

 

「あっー」っと驚くラストですが、それまでの描写が支離滅裂すぎて気分は沈沈。このどんでん返しがグッと浮き上がってこないところが、惜しいなぁと感じました。

 

スキャナー・ダークリー】はなぜ鑑賞後、釈然としないのか?

f:id:analogchan:20191208154502j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/A-Scanner-Darkly-11803178355/

以上の要素からすれば、SF映画としてワクワクするポイントは、かなり押さえてあるはずなのです。ではこれだけの面白い要素を持ち合わせていながら、なぜ観終わった後釈然としないのかを考えてみます。

 

1.そもそもテーマがダークであり、鑑賞後陰鬱な気分になるから

先ほど申し上げたように、この映画ではロトスコープという手法が使用されています。この映像表現が巧みであるがゆえに、このいや~な気分を再三味わわなければなりません。アニメになったり実写になったり、これがゆる~く変化し繰り返されるのです。1秒前まで実写であったキアヌが、気が付くとアニメの描写になっていたりする。

 

これにより現実と幻覚の区別が付かなくなった登場人物らの、不安定な精神状態がこちらの気分にも影響してきてやや不愉快な気分に。原作者のディックも数々の麻薬に溺れる人々を見てきており、周囲の人々が麻薬の副作用に苦しんでいたようです。だからこれはディックの経験であり、トラウマなのでしょう。

2.とにかくいろんな意味で分かりにくいから

例えば、スクランブルスーツを着用している人が画面に2人以上出てくる場合、どちらがボブ(フレッド)なのか判断しづらい。その上時折アニメーションでのボブが現れ、その時の心情を表してくれるので観る方としては混乱するわけです。特にバリスが警察にやってきて、密告をするシーンなどは気持ちがざわつきました。全体的に説明不足で、その上人物らの会話もどうでも良いような内容が多いので、筋書きをしっかり把握するためにはある程度の辛抱が必要です。

 

3.エンディングの後味の悪さ

ラストシーンで、ボブは「ニュー・パス」という物質Dの重度中毒者の厚生施設に送られます。これは警察側のたくらみで、奴らは実はニュー・パス内にボブを送り込むこと自体が目的でした。なぜなら「ニュー・パス」には、警察も立ち入り禁止とされていた場所だからです。よって重度の中毒者であるフランク(ボブ)なら、あの施設に入れるだろうとにらまれていた訳です。

 

しかも何とニュー・パスでは、物質Dの原材料となる青い花が育てられていました。よってフランク(ボブ)は、警察にDの中毒者になることを仕向けられていたと言えます。そんな話ってある?このダークなオチに納得がいかないのは、私だけではないでしょう。

 

しかしもっと気になるのは、その後フランク(ボブ)がどうなったのか?まるで描かれてない事です。警察はボブが復活して、青い花を育てている現場を押さえることを期待している訳ですが、それがどうであったか分からないので、観ていても大変落ち込みました。でもそこが、ディック作品っぽくもあります。

 

4.正気ではない人々の会話を、真面目に聞いていて疲れるから

2度目の鑑賞であると、「だいたいこの人のセリフは真剣に聞く必要はないな」など、判断がつきます。例えばボブの同居人アーニーのセリフは「クソー、ハメられた」とわめいたりとか、そんなのばかりです。

 

またバリスが自転車を安く買ったと喜んでいるシーンなどは、「ギアが何段階」だの「騙されてチャリを売りつけられた」だの皆で必死に話し合っているのですね。さらにはバリスが銃のサイレンサー作りに失敗し、大きな爆発音がして周囲がキレるシーン。

 

全体的にこの会話要る?みたいなのが目立ちました。あとは高速で車のブレーキがきかなくなったシーンでも、ボンネットを開けて原因についてあれこれ話していましたが、何というかくせになりそうなまったり感ですね(笑)。その後すかさずDを口の中に放り込むバリスたち。「あなたたちが車のボンネットとか開けて大丈夫ですか?」と言ってやりたい。

 

5.心理学者達の行うテストの答えに、イマイチ納得できない

警察に雇われた心理学者らは「これが何の絵に見えますか」というようなテストを、フレッド(ボブ)に行います。しかし私が見る限り、この絵が何とも分かりづらいのです。

フレッド:「羊だ」

心理学者:「どこが羊?」

フレッド:「羊じゃないのか?」

心理学者:「答えは犬です」

......。こんなやりとりを見ていて、「えーなにそれ」「羊にも見えるよね?」とか思ったりする訳です。ロールシャッハテストと違い答えはたった1つだそうですが、到底そんな風には思えません。

 

しかも心理学者は「このテストはDへの依存度とは無関係」などと最初に言っているので、尚更じゃ一体何を調べているのか?と聞きたくなりました。しかしこのテストで不合格であればニュー・パス行きになる訳で、やはりDの使用による脳のダメージを調べている訳です。

 

スキャナー・ダークリーのざっくり感想】完全ネタバレ 

このようにちょこちょことした不明点が重なって、徐々に気持ちがもやもやしていった気がします。『スキャナー・ダークリー』が、ディック原作映画の中でも一般受けはしないSFなどと言われ、大幅に評判が分かれる作品であることも納得です。でもあと1回観ればもっと好きになるかも(過去2度ほど鑑賞)的な、可能性を秘めた作品ですね。もちろん現時点でも、自分自身の個人的な評価は低くないです。遅々としたストーリー進行、豪華なキャスト陣をアニメ化する大胆さ、など個性も強くて良い。ただ、何かが惜しいと感じる映画でした。あとはドラッグって怖いなと思ったりしましたが、それこそがディックからの強いメッセージという気もします。

 

 

スキャナー・ダークリー (字幕版)

スキャナー・ダークリー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
スキャナー・ダークリー [Blu-ray]

スキャナー・ダークリー [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: Blu-ray