アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

オブリビオン【映画感想】やや強引なハッピーエンドに脱帽!【後編】

オブリビオン

原題:Oblivion/上映時間:124分/製作年:2013年

オブリビオン(吹替版)

監督:ジョセフ・コシンスキー

原作:ジョセフ・コシンスキー、アーヴィッド・ネルソン

脚本:ジョセフ・コシンスキー、カール・ガイダシェク、マイケル・アーント

出演:トム・クルーズオルガ・キュリレンコモーガン・フリーマンアンドレア・ライズボロー他

 


トム・クルーズに直撃インタビュー!!「2回見て欲しい!」 「オブリビオン」ホワイトカーペット

どうでもよいですが、戸田奈津子のざっくり過ぎる通訳が...。ドローンの管理人(笑)

というわけで『オブリビオン』の後編です。以下完全にネタバレしていますので、未見の方はご注意ください。

 SF映画と見せかけて、案外恋愛映画なオブリビオン

 『オブリビオン』に対しての評価は賛否がある上、褒めるところ、けなすところも人によってそれぞれ。以下はよく見受けられる意見です。

・とにかく映像美が素晴らしい

・何気にジャック、ジュリア、ヴィカの三角関係やその心理描写が描かれている

・ミステリアスな過去が徐々に明かされる物語の展開が良い

・ラストシーンに納得がいかない

・どこか惜しい作品

・どこかで観たようなプロット、残念、など否定的な意見

自分としては、観たことがない部類のSF恋愛映画だなぁという印象です。ガチなSF映画として観れば突っ込みどころは多数あるのかも知れませんが、愛とかにきちんと焦点が当てられているので文句の言いようがないかなと。

 独特なディストピア表現

そんな『オブリビオン』ですが、映像表現が美しく独特な廃墟の表現がなされています。ディストピア映画だと通常、ガラクタの山があったりして汚れた地球の描写が続く場合が多いですが、『オブリビオン』の地球はがらんとしていて美しい。ロケは、アイスランドをはじめニューヨークカリフォルニアの北部で行われたようです。また更にこれらの場所で撮影した映像を、セットの中のプロジェクションスクリーンに映すという手の込んだ手法も使われています。タワー49内の映像は合成ではなく、巨大なセットだったということですね(汗)。こうすることで、俳優らが標高1000mのところにいるように感じるように工夫したようです。しかし、こんなものをわざわざ実際につくるなんてどうかしてますよ。

さらにディストピア映画を匂わす、プロットもいくつか挙げてみます。

指導者が分からない

f:id:analogchan:20200103170918j:plain

画像引用:映画『Oblivion』公式Facebook

ストーリー序盤から中盤あたりまで、サリーという指導者がモニターに現れます。どこか不自然なサリー。後半ではこのサリーの本性がだんだん分かり、ラストまで観ると実はラスボスが60年前の映像を再利用していただけという始末です。このようにトップに立つ人物に会ったことがない、実在しているという確信が持てない、など存在があいまいであるところが不気味です。テットがサリーの映像を選んだのは、60年前の指令官だったので、ジャックらを思い通りに動かせると踏んだのでしょう。トップに立つ人間が、モニターにしか映らず実際に姿を現わすことがない場合は要チェック!『1984』のビッグ・ブラザーや、はたまたtwitterBotも、みんなあやしいぞ!

過去がねつ造されている

ストーリー序盤では、人類はスガヴ(突如現れたエイリアン)との戦いに勝ったと聞かされます。しかし後半に、実際の人類の生き残りはビーチらのみと分かります。しかもスガヴというのは、テットが勝手にでっち上げた架空の敵だったのです。

行動範囲を指定し、拘束する

f:id:analogchan:20200113102601j:plain

画像引用:TomCruise公式Facebook

ジャックらが危険区域と聞かされていた場所は、実は他のクローンの持ち場でした。テットからすると、ジャック同士が鉢合わせになっては困るので、放射能汚染されていると脅していたのです。手ぬるいやり方ですが、危ないからダメと言っておいて、実は都合の悪いことを隠すというパターンは、いかにも監視社会という感じです。

納得のいかないルール

またおかしなルールで人を縛るのも特徴。例えば、ヴィカの外出禁止などです。なぜ外出禁止なのでしょうか?ヴィカは劇中一度だけタワーの外に出ますが、これはサリーの命令であった可能性もあります。なぜ言いつけを守るのだろう?と思い観ていてイライラしますが、このようなルールというのは、その時代またはその状況の中にいる人には、気づきにくいものなのでしょう。

 

また自分が子供の頃の風潮だと「子供は学校に行かなければいけない」「行かない子は悪い子」というムードでしたが、冷静に考えれば、なぜ行かなければいけなかったのでしょう?これは、確かルール違反にならないはずです(多分)。ヴィカに対してジャックはかなり自由に見えますが、それは彼がちょいちょいルールを破っているから。そう考えるとルールを破るのは、守ることより難しいですね。

 

ヴィカはあんなにジャックを愛していたのに、彼からもらった植物をポイしてしまう。どれだけ、サリーから脅かされていたのか分かりません。挙句の果てには、言いつけを守るいい子のはずのヴィカがあっさり殺害される。このキャラにあまり好感は持てませんが、それにしてもあんまりじゃないかな?とディストピアっぽいプロットは、いろいろなことを考えさせてくれます。

 

 実は○○だった、実は××だったの連続。頭の中の更新が間に合わない

先の読めない展開にハラハラさせられっぱなしというよりも、若干次の展開が仄めかされやはりそうだった!と思わされるパターン。「実はこうでした...」の連続で「えっそうだったの?」と知らされる事実は面白く新鮮なのですが、新事実を脳内でいちいち更新していくのが大変でした(汗)。

ジャック「オレがサリーから聞かされていた事実」

f:id:analogchan:20191210224938j:plain

画像引用:映画『オブリビオン』公式twitter

・人類の敵→スガヴ

・スガヴとの争いで人類は勝利した→しかし核の使用により地球は汚染されてしまったため、住めなくなった。

・人類がテットを設立した。だからテットは人類の味方。

多くの人々はテットに避難しそこに住んでいるその後タイタンに移住する予定

・地球上の危険区域には立ち入ってはならない→放射能汚染されていて危険だから

・サリー→テットから仕切る実在の指令官

・地球上にいる人間は、ジャックとヴィカだけ

巨大なポンプによってくみ上げられた水は、テットに住む人類にとって必要なもの

・地球には相変わらずスガヴの生き残りのエイリアンたちが攻めてくる→ジャックは人類のため海水をくみ上げるポンプの護衛をしている

 

ビーチ「これが本当の話だ」

f:id:analogchan:20191210224030j:plain

画像引用:映画『Oblivion』公式Facebook

・人類の敵→テット

・人類がテットを作ったのではない。テットはもともと存在した宇宙の謎の生命体

・多くの人々はテットからの侵害で殺された→タイタンへ移住する予定というのは嘘で実のところ、テットに人類はいない。生き残りは地球上に身を隠して住む、ビーチら(観た限り1000人ぐらい)のみ。

スガヴという敵はテットのでっち上げたデマ→人類の生き残りをスガヴと認識させる

・危険区域は放射能汚染されていない→数多く存在するジャックのクローンが顔合わせしない為の口実

・サリー→60年前のジャックらの指令官。おそらく存命人物ではないが、映像を使い回される。

・ジャックはクローンであり、実は地球上には数多くのジャックが存在する→冒頭から主人公として現れるジャックは49号。そして危険区域で遭遇したもう一人のジャックは52号。

数えきれないほどの人類を殺害したのは、大量にクローン化され人格を変えられたジャック

 

 小道具はワイエスの絵画『クリスティーナの世界

f:id:analogchan:20200112230709j:plain

画像引用:https://www.facebook.com/MuseumofModernArt/

ジャックの湖畔の隠れ家のコレクションには、アンドリュー・ワイエスの絵画『クリスティーナの世界』の絵があり、これが意味ありげに時々映し出されます。アンドリュー・ワイエスと言えば、卵を使ったテンペラ画などで有名ですね。何とこの絵のモデルのクリスティーナが描かれたものだけで、200点以上あると言われています。クリスティーナの世界』では、足の不自由なクリスティーナが車いすを拒み、腕の力のみで家に帰ろうとしている様子が描かれています。

 

確かに歩くことは難しいかも知れない。しかしそれでも車いすを拒否するというところにアナーキーさが感じられ、カッコ良いなと思いました。更にこの絵の中の女性と、ジャック&ジュリアの意気込みがオーバーラップしてきます。2人が結ばれる結末を期待するのは、無謀かもしれない。しかし小児麻痺のクリスティーナに車いすを拒否する選択があるように、クローンである49号ジャックにも選択肢はあるのかなと。

 

ジャック「僕らの魂は愛から生まれ、時を超え死にも打ち勝つ」

 

49号は人類を守るため死を選び、更にジュリアがさみしくならないよう配慮した。彼にとってこれ以上の愛情表現はなかったかも知れません。ちなみになぜ監督はこの絵を小道具に選んだのだろう?と思い調べてみると、「2人(ジャックとジュリア)はよりシンプルな世界に戻りたがっている」と述べているらしいです。う~ん、何かおっしゃってることが高尚過ぎて、よく分からない(-_-;*) 

 

 気になるラストシーンの考察

※一部『月に囚われた男』もネタバレしますのでご注意ください。

本作品を3度ほど鑑賞し、気付いたことがありました。それはこの映画はれっきとしたハッピーエンド作品であった!ということです。これはもしかすると、かなり偏ったおめでたい意見かも知れないです。しかし自分はオブリビオンの脚本が、案外高く評価されていることがずっと気になっていました。たしかにラストシーンで52号のジャックがしれっと現れた時のがっかり感は否めませんが、今後のジュリアにとってそれが悪いとは決して言い切れません。

 

確かに鑑賞者は最初から見ている49号に感情移入しがちなので、52号が「オレジャック、49号ともオリジナルとも違うけどよろしくねー」的に微笑むのが気に入らないという気持ちも生じてきます。トム・クルーズはインタビューで、「人間とは何か?愛とは何か?良い死に方とは何か?を問うような映画、2度観て欲しい」と語ってきますから、クローンの52号が笑顔で現れるラストのどこが愛なわけ?と一見安い着地にムカッ!どうも納得がいかないという精神状態に陥りました。

 

更にこれを突き詰めていくと、そもそもクローンそれぞれの性格は違うか?などの問題になってくるのではないかと。例えば『月に囚われた男』のサムなどは、そのクローンによってかなり性格が違いました(すぐにブチ切れる短気なサムと手先の器用なサム)。49号が52号のスカイタワーに戻った時、52号のヴィカは入れ替わりの彼に全然気が付かなかった。これを考えると、この2人のクローンの性格はかなり似ているかも知れません。

  

52号がジュリア親子の住む湖畔に現れた時、バブルシップに乗って来た気配はなく、まるで自力で歩いてきたような雰囲気を漂わせています。ストーリー終盤でテットが爆破された時、ドローンが一気に誤作動を起こし自滅する描写がありますから、となるとそもそもテット崩壊後バブルシップが機能するかどうかも分かりません。5年間しか記憶が無かった52号ですが、テットのシステムが破壊されたことによって、徐々に昔の古い記憶を取り戻した可能性も考えられます。よってオリジナルジャックと同じことを望む様になり、ジュリアとその居所を見つけることができた。これを仕込んだのが、主人公のジャックです。

f:id:analogchan:20200113152723j:plain

画像引用:映画『オブリビオン』公式twitter

49号のジャックはなぜ、湖畔の隠れ家にジュリアを残したのでしょうか?もしもジュリアの身の安全を考えるなら、人類の生き残りがたむろしているあの場所でジュリアを目覚めさせるべきだった。しかしそれをやらなかったのは、おそらく自分と同じクローンのジャックが、必ずジュリアを見つけ出すはずだと踏んでいたからでしょう。3年後、52号のジャックとジュリアが出会えたという奇跡は、49号のジャックの大きな愛情があったからだと思うのです。

 

湖畔の隠れ家は、オリジナルジャックの夢を実現した場所だった。またテットのシステムが機能していない52号のジャックは、49号よりもオリジナルジャックの人格に近いと言えます。ジュリアが本当に望んでいたのは、オリジナルジャックとの再会のはず。

 

またこれは超個人的な解釈ですが、本気の恋愛をすると相手Aが過去に好きだった男性Bの人格のコピーをしょい込んで現れる気がするのです。となると52号は、ジュリアが出会ったオリジナルジャックや49号ジャックの人格のコピーをしょい込んできている可能性もあるかも知れません(笑)。基本人格は52号で、時々オリジナルジャックみたいであったり、49号のジャックであったりするということになりますね。

 

愛や虚構、一見不確かなものが一番確かなのだと思う。そう信じたいです。

 

オブリビオン (字幕版)

オブリビオン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
オブリビオン(吹替版)

オブリビオン(吹替版)

  • 発売日: 2016/01/30
  • メディア: Prime Video
 
オブリビオン [Blu-ray]