アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

映画感想【ブリス ~たどり着く世界~】 完全ネタバレ

ブリス ~たどり着く世界~

原題: Bliss/上映時間:103分/製作年:2021年

ブリス ~たどり着く世界~

監督:マイク・ケイヒル

脚本:マイク・ケイヒル

出演:オーウェン・ウィルソンサルマ・ハエック、マデリーン・ジー

【ブリス ~たどり着く世界~の作品紹介】

脚本・監督は『アイ・オリジンズ』のマイク・ケイヒルで、以前当ブログでご紹介しました『アナザープラネット』の監督でもあります。

analogchan.hatenablog.jp

 う~ん、今回の作品はちょっと不思議な感じです。「不思議な味がする」とか言いますよね。そんな感じです、ご察し下さい。でも、面白くなかった訳ではありません。むしろ個性は強く、鑑賞後その他の映画を観てもなぜかコレを思い出してしまう始末です。

 

 ざっくり【ブリス ~たどり着く世界~】のキャスト


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グレッグ(演:オーウェン・ウィルソン

上記ポスター画像の右側の男性。コールセンターに勤める。

イザベル(演:サルマ・ハエック

上記ポスター画像の左側の女性。ホームレス。

 

【ブリス ~たどり着く世界~】のあらすじ(序盤~中盤)完全ネタバレ

「もしもし、おじさん電話で上司から呼ばれてますよ~!」私の声は届かなかった。グレッグはぐずぐずし、全然上司のところに行きません。とある会社のコールセンターには、ひっきりなしにクレームの電話がかかってきており、大勢の人々が懸命に対応しています。しかし責任者のグレッグはろくに対応もせず、個室に籠ったきり。何かの薬を服用しているようです。

 

グレッグは離婚していましたが、大学生ぐらいの娘エミリーがいます。その娘から大学の卒業式の日一緒に食事をしたいと、誘いの電話が入る。しかしグレッグは元妻が何と言うか気にしているようで、ためらい気味です。

 

彼は、頭の中にある風景を紙に描いて持ち歩いています。女性や展望台、ホテル"プレアデス"など。しかし、その景色はとてもリアルです。

 

その後ようやくグレッグが上司の部屋に入って行くなり、上司からクビを言い渡されました。キーっっ( `∧´)となったグレッグは不意に上司を突き飛ばしてしまい、上司は後部にあったデスクで後頭部を打ち即死。「えっー!ちょ、ちょっと突き飛ばしただけなのに死んだの?」てびっくりしたグレッグは、思わずガラス張りの窓際に上司を立たせた状態で貼り付け、カーテンで隠す。このやり方だと、外からは丸見えなんですがね...。

 

動揺したグレッグはその後会社を飛び出し、通りを挟んで向かいのバーに入りました。バーにはインチキ占い師風の中年女性イザベルがいて、イザベルはグレッグに「リアルだねぇ、あんたリアルなんでしょ」とかなんとか言ってきます。「いかれてんの?」グレッグは女を不審者を見るような目で見ますが、その超マイペースな女はグレッグに「アリバイが必要なんでしょ」と脅してきました。

 

イザベルは、この世界はフェイクワールドで、道を歩いている人やバーテンダーなどは、皆リアルじゃないと話します。「あんたには助けが必要...」グレッグはイザベルにそう助言しますが、彼女は全く自分を疑っていないようです。しかし、その気はなかったにしても、上司を殺してしまったグレッグは身を隠さねばならないので、仕方なくイザベルの隠れ家に案内してもらいました。

 

川沿いの空き地にテントを張り、ガラクタを集めたような住み家。グレッグは日頃から持ち歩いている自分の想像の世界の絵をイザベルに見せますが、イザベルはこの絵の世界こそがあなたのリアルな人生なのだと言って聞きません。更にイザベルは黄色い宝石のような薬イエロークリスタルを持っており、それを飲むとグレッグにも念力のようなパワーが宿りました。2人は、スケート場でその念力を使い、気に食わない連中を転ばせたりして楽しみます。アホか!イザベルいわく、あの人たちはリアルじゃないんだから、何をしたって平気だと言います。

 

ある日イザベルは、グレッグが自分の元から逃げ出そうとしたと勘違いし、取り乱しました。出会ったばかりなのに、もう恋人気取りでグレッグを束縛か?と思いきや理由は他にあったのです。イザベルは「あんたのことが心配だ」と言い、グレッグに真実を教える決意をしました。イザベルは今度はブルーのクリスタルを取出し、「あーっ、ちょっと足りない、でもいいわ~」と言って、不格好なミニ装置に入れます。その装置を思い切り鼻から吸い込むグレッグ。

【ブリス ~たどり着く世界~】のあらすじ(中盤以降)完全ネタバレ

意識が戻ると、そこは研究施設のようです。脳のホルマリン漬けみたいなのを取り囲み、10名ぐらいの被験者たちが眠っている。イザベルもグレッグもこの研究に参加していた、という訳です。なんと先程までのホームレスの世界は全て仮想現実だった(汗)ちょうどあの懐かしい『マトリックス』のような感じです。イザベルの言う「あの人たちはリアルじゃない!」は本当だった。これはブレインボックスという、イザベルの研究だったのです。

 

リアルな世界では、イザベルはクレメンズ博士、グレッグはウィトル博士と呼ばれていました。そこでは、満たされた人々が穏やかに暮らしています。たしかにグレッグが描いた絵とそっくりなユートピア。グレッグは、この世界の景色をうっすらと記憶していたのでしょう。しかしイザベルは、なぜあのような退廃した仮想空間を作ったのか?それは満たされ過ぎた現実へのありがたみを忘れないための、プチ貧乏体験ツアーのようなものだったのです。

 

しかし、仮想現実から戻ってくるために摂取するブルークリスタルが足りなかったせいで、グレッグはリアルな世界にいた頃の自分が思い出せない。その上FJPであるはずの、娘エミリーが現実の世界に紛れ込んできてしまいます。

 

FJP(フェイク・ジェネレイテッド・パーソン)架空の人間

 

これがきっかけでリアルの世界に、シミュレーション世界に住む連中が現れ、車を燃やすなどの暴行を加えはじめます。イザベルいわく、ブレインボックスの細胞が頭に入り込んだせいで、シミュレーションの一部をこちらの世界に連れてきてしまったとのことでした。そこでこの不具合を修正すべく、グレッグとイザベルはもう一度仮想世界に入り込みました。ケンドという薬をくれる被験者を撃ち殺し、ブルークリスタルを奪略。イザベルいわくシミュレーション内のケンドを殺しても、リアルの世界のケンドは死なないらしいですが、あんまりじゃないですかね(汗)。

 

しかし現実に戻るためのブルークリスタルが1人分しかなく、足りないとわめくイザベル。いやいやいや、そこが一番重要なポイントでしょう?この場合。2人は既に警察から包囲されており、イザベルの作った貧乏体験シミュレーションは悪夢へと変わりました。付近にいた娘のエミリーは、危ないからという理由でパトカーに乗せられてしまい、グレッグはこのシミュレーション世界に残ることを決意。イザベルはブルークリスタルを鼻から吸い込み、リアルな世界へ戻りました。

 

【ブリス ~たどり着く世界~】の大まかな感想(ネタバレあり)

映画でルビンの壺をやろうとしたのではないか?

この映画の鑑賞後、直感的に思い出したのが『ルビンの壺』です。もしかすると監督はこれを映画で表現したかったのではないかと。

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みなさんお馴染みの『ルビンの壺』

白い部分を認識すれば壺に見えるが、その時黒の部分は背景としてしか認識されない。また黒い部分を認識すれば向き合った2人の横顔に見え、白い部分は下地と認識される。この2つの絵柄を同時に知覚することはできない、というヤツです。

同じ絵を見ているのに、その時々によって見える形が違う!というのも面白いですね。

 

で『ブリス ~たどり着く世界~』では

①イザベルの作ったバーチャルな世界

ユートピアのような現実世界

 

という2つのパートに分かれています。

物語の描かれ方としては、もちろんユートピアが現実で、冒頭からの現代に似た世界が仮想現実という風になっていますが、見方によれば、違う解釈もできるなと...。

 

イザベルはこれはリアルじゃないとバーチャルな世界を否定しますが、単にイザベルとグレッグがドラッグに溺れているのでは?という気がせんでもないです。そしてリアルというのは、彼らが見ている幻覚なのではないかとも思うのです。そういう視点で見ると、何もかもがそう見えてくる。ブルークリスタルを吸い込む装置にしても、鼻の穴からって何か変じゃない?と思いました。

 

冒頭シーンだって、グレッグが最優先で電話をかけているのは薬局の処方箋ですし、彼は服用している薬に酷く依存しているようすでした。ラスト付近ではグレッグが退廃(良いことのない)した世界に残る決意をするも、真っ先に飛び込んだのは「セーフ・ハーバーリハビリ診療」の集団セラピーという奇妙な展開。皆の前で娘の写真を取り出したグレッグは「この人は僕の娘だと言っている。僕はそれを信じる」と言いました。えっー信じるって!!

 

 そうなってくると、辛い現実だと思っていた世界が仮想現実だと知らされ安心したが、やはり辛い現実が現実だったのだ。となりそれは、最初は壺だと思って見ていたが、よく見るとこれは人の横顔であると気付き、しかしもう一回見るとやっぱり壺だったみたいなのに似ているなと思ったのです。

 

しかしそこで、どちらが正しい解釈か?を求めるのは野暮というものでしょう。またどちらが本当か?を鑑賞者に委ねるというよりも、どちらの世界も描いています!という風に感じました。以下の記事も興味深いです。

ケイヒルは最近のインタヴューで、次のように語っている。「『ブリス ~たどり着く世界~』は解釈の双安定性が存在するとき、いちばん成功する作品と言えるでしょう」。これは、「わたしはふたつの矛盾する見方がそれぞれ成立する映画をつくりました」ということを、ちょっと物理学っぽくいい感じに語った言い方だ。

引用元:『ブリス 〜たどり着く世界〜』は、矛盾しつつ共存するふたつの世界を描こうとしている:映画レヴュー - ライブドアニュース

何というか、実験的ですね。

 

サルマ・ハエックの演じる中年女性イザベルがえらく不人気で笑う

構造としてはとても面白い試みをされているのに、お話としてちょっと残念な部分があったということも申し上げておきましょう。他の方のレヴューを読んでいても、イザベルに対しての文句が目立ちます。「魅力のないおばさんが出てきた」みたいな感想が多かったです。何だろうこの不快指数...でも確かに観ていて、イラッとさせられる場面が多いんですよね。フェイクを倒した時の、はしゃぎっぷりなど寒くて見ていられません。

 

特にバーチャル空間でのイザベルは向う見ずで、慎重さに欠ける軽率な行動が目立ちました。ケンドを殺した後にブルークリスタルが足らないと騒ぐあたりも、そんな低知能でブレインボックスの開発者だと、誰が信じるでしょうか?20粒必要なブルークリスタルが11粒しかないの、パッと見で分かるでしょう。数ぐらい、ちゃんと数えて欲しいものです。

 

その他面白かったところ

もちろん笑える箇所もありました。例えば、FGPが再起動されることなど。FGPすなわちフェイクである上司が生き返ったのを見て、驚きを隠せないグレッグ。しかしイザベルは「あぁ、再起動したのよ!」と言って軽く流します(笑)そんなぁ...。

 

あとリアルの世界とシミュレーションの世界が混合する描写なども良かったですね。またイザベルは、リアルの世界の地図とシミュレーション内の地図がちょうどカブるように設計しているようでした。だからホームレスの住居区で、仲間がグレッグにビールを投げて渡すシーンがあるのですが、それがユートピアでは露店となり、誰かがリンゴを投げてくれるのです。「いくぞグレッグ!」と掛け声も同じです。

 

それからイザベルとエミリーが鉢合わせになりそうで、ならない。イザベルとエミリーが、直接会話するシーンがなかったことにも(記憶の限りでは...)こだわりを感じました。細かい部分は色々楽しめましたよ。少なくとも、雑な造りではないと思います。次作に期待!