アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

パッセンジャー【映画感想】起床のタイミングが悪かった男とその巻き添えになった女

パッセンジャー

原題:Passengers/上映時間:116分/製作年:2016年

パッセンジャー (字幕版)

監督:モルテン・ティルドゥム

脚本:ジョン・スペイツ

出演:クリス・プラットジェニファー・ローレンスマイケル・シーンローレンス・フィッシュバーンアンディ・ガルシア

 まえおき(900文字)目次からスッとばし可能です

今回は『パッセンジャー』のレビューです。私がこの物語で好きだなと思ったのは、宇宙船内の乗客たった1人分のポッドが故障するという、ちょー地味なエラーが引き金となりストーリーが展開するところにあると思うのです。一見すぐ解決しそうな問題が、なかなか手ごわいみたいな...。私は30歳ぐらいの時、自分のアパートのトイレから出られなくなったことがあります(汗)。1人暮らしで、そのトイレには窓がなかったのですよ...。で最初に思ったのは「あ~あ、めんどくさいな」くらいのことで。でも10分経っても、20分経ってもドアが開かない...。そのドアの鍵はちょっと前から、少し壊れかけていました。でこうなった時、さすがに焦り始めたのです。「えっ、これってこのまま出れなくなったらどうする訳?」とか思い始めまして。携帯電話をポケットに入れておけば良かったな、とか、更にはこのドアは木製だろうか?とか。最悪の場合、トイレタンクの陶器をドアにぶつけて壊すしかないなと思いました。手に嫌~な汗をかく感じです。「自分はここで餓死するのではなかろうか?」とか「いや、その前に友人や職場の人がこれはおかしいと気付いてくれるかも」とか、さまざまな考えが頭をよぎりました。でその時とても小さなマイナスドライバーが、ふっと目に入りまして。それは以前何かの修理で持ち込んだのですが、このドライバーでドアノブのねじを開けてドアノブを外せないか?と考えたのです。もう、超慎重にやりましたよ(;゚д゚)、ねじ山が壊れたらおしまいなんで...。静かに静かに、地味~にカチカチやりまして、ドアノブが外れた瞬間にすっーっとドアが開いたのを覚えています。やったぁ~(泣)外に出れた!と思いました。トイレから出るのがこんなに大変だった日はない。で、この話を後日友人らの飲み会でしたら、その内の1人の男友達が「つい最近、俺も同じ目に遭った!」ってびっくりしたように言い出しまして...。脱出方法は彼と私とで、違いましたが...。その日、何だか彼のことを好きになりそうでしたよ。「トイレに閉じ込められる」こんな地味な恐怖体験話で盛り上がれる同志がいるとは、思っていませんでしたからね(笑)

 

パッセンジャー】の登場人物(ネタバレあり)

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画像引用元:https://www.facebook.com/PassengersMovie/

ジム・プレストン(演:クリス・プラット

 この物語の主人公(上の画像の左の人物)。エコノミ-クラスの船客で、職業はエンジニア。悪い人ではないのだろうけど、とにかく運が悪かった。クリスが演じているのでイケメンなはずですが、ごく普通の冴えない男として描かれます。

オーロラ・レーン(演:ジェニファー・ローレンス

この物語のヒロイン(上の画像の右の人物)。ファーストクラスの乗客で、作家。地球上ではリッチな家庭に生まれながら、有意義な人生を歩むことができなかった悲しい美女。ジムから目を付けられたことで、人生が一変します。

アーサー(演:マイケル・シーン

アンドロイドのバーテンダー(上の画像の中央)。120年の宇宙旅行の到着間際の人々が、バーで酒を飲むだろうということで用意されたと見られます。しかしオールタイム稼働中であったため、ジムの良き話し相手となりました。

ガス・マンキューゾ(演:ローレンス・フィッシュバーン

責任感あるクルーで甲板長。しかも、マトリックスのあの方じゃないですか!船のことは彼に聞けですね。

パッセンジャー あらすじ】完全ネタバレ

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画像引用元:https://www.facebook.com/PassengersMovie/

 宇宙船アヴァロン号

時は20XX年。やたらとでかい宇宙船アヴァロン号は、乗客5,000人とクルー258人を乗せ、目的地のスペースコロニーへと向かっていました。この中に乗っている人々は、物好きなのか?もしくは先見性があるのかで宇宙への移住計画にすばやく飛びついた人々です。地球からコロニーまでの旅は120年もかかり、その間はコールドスリープ器で冬眠するという予定でした。

 

そして120年が過ぎ宇宙船到着の少し前に目覚めると、しばし船内で過ごし、目的の惑星に到着すれば、そこで暮らすこととなる計画。当然地球でも120年が過ぎていますから、家族や恋人、友達などはもう存在しません。この宇宙船に乗り込む決断をするということは、周囲の全ての人と別れることとなります。また地球に住んでいる人達から見ても、宇宙に行ってしまい二度と会えない訳ですから、死んだも同然ということになりますね。地球から見送る人もとてもさみしい思いをすることになるわけです。

 

そんな勇気ある決断をした人達が5,000人も乗っているアヴァロン号。そんな中、エコノミークラス乗客のジムの冬眠ポッドが怪しい動きをします。ジムのポッドだけがウィーンと開き、「おはようございます、ジム様」みたく言われてしまうのです。おそらく到着前の数ヶ月を過ごす予定の個室に通されますが、何となく落ち着かないジム。その内船内を駆けずりまわり、他の人はどうなってるのか?と探します。しかし、美しい船内はガランとしていて、誰ひとり見当たりません。

 

ボッチ感が半端ない!

「えっ、起きたのオレだけ?」ジムはようやく状況を把握しました。それは、宇宙船が出発してから30年という何とも中途半端なタイミングで、目覚めてしまったということ。故障したポッドが誤作動を起こしたのでしょう。ジムはパニックに陥りますが、この計画を実行したホームステッド社ってところに連絡を入れてみます。しかし、

アヴァロン号から地球に連絡が届くのに15年かかり、

その上地球から宇宙船に返事が戻ってくるのが55年後

どんな先の話やねん!って。ジムも「なんだそれ、全然使えねーじゃん」とキレるのです。幸いジムはエンジニアなので、故障したポッドを修理し再び冬眠できないかと試しますが、逆に命を落としそうになります。実はこの船には5,000人の乗客以外に250人ぐらいのクルーが乗っているのですが、彼らも全員冬眠中であり、クルーの冬眠室はセキュリティが厳しく開きません。「もう、どうすりゃいいの?」ってなったジムは船内のバーに行き、アンドロイドのアーサーに話しかけます。

 

そうして1年が経ち、ジムはひとりぼっちが辛すぎて、毎日がもうどうでも良くなっていました。髭は伸び放題、髪の毛もボサボサです。で、遂には宇宙服を着て宇宙遊泳を楽しんでみたりもします。そして、「裸で飛び出せば、死ぬこともできるな」などと考えてしまいました。「いかん、いかん」と、何とか気を取り直すジム。

 

タイプの女性♡オーロラを見つける

そんな時、ジムは皆が眠る部屋で、超好みの女性オーロラを見かけました。その日以来、ジムはオーロラについて徹底的に調べます。オーロラはファーストクラスの、すなわちお金持ちの乗客で、職業は作家でした。

 

「オーロラを起こしたいなぁ」「いや、そんなことをしては絶対だめだ」「でも起こしたい」「ダメだ、何を考えてるんだオレ」そんな葛藤が続きます。そしてある日、遂にオーロラのポッドを作動させてしまいました。自分が細工したくせに、いざとなると逃げだして姿を眩ますジム。

 

オーロラは最初は何がなんだか分からない...といった風で、ジムと同じく船内をウロウロします。そこでタイミングを計り、自然に話しかけるジム。ジムはオーロラに状況、すなわち皆よりも80年近く目覚めてしまったことを伝えます。ショックの余りパニックに陥るオーロラですが、次第にジムとの恋に落ち、船内デートを楽しむように...。

 

アンドロイドのアーサーの発言で真実を知り、オーロラ激怒!

しかし!バーテンダーのアーサーが余計なひと言を言ってしまったがために、オーロラの表情は凍て付きます。アーサーは、実はジムがオーロラのポッドをいじり、故意に目覚めさせてしまったことを悪気もなくバラしてしまったのです。その日から、オーロラのジムに対する態度はがらりと変わります。ジムは完全に人生の殺人者扱い。ジムにとっても、オーロラにとっても、再び絶望的な日々が始まります。

 

そんな中、今度はガス・マンキューゾという甲板長のクルーが目覚めてしまいます。原因は同じくポッドの故障。ガスはジムがオーロラを起こしたことを悟り「お前って、超最低...」みたいな目で見ます。さらに、船内のあちこちでマシンが誤作動を起こし始めました。様子がおかしい...。

 

ギスギスしていたオーロラとジムですが、とりあえず3人で原因の究明を急ぎます。ロボットが誤作動を起こすばかりか、オーロラがプールで泳いでいる時に無重力状態となってしまい、船内はもうめちゃくちゃ(汗)その上、ガスの冬眠ポッドは以前から調子が悪かった様で、頼みの綱であったガスはしばらくしたら、死亡しました。その際にジムは、ガスのアームバンドを受け取ります。ガスのアクセス権があれば、全ての部屋の鍵を開けることができるのです。

 

残された2人はとりあえず休戦。最終的にはジムの命をかけた挑戦により、宇宙船は救われます。オーロラはジムを愛していると再認識。他の乗客の命も無事でした。と、こんな感じの話です。

 

パッセンジャー感想】 完全ネタバレ

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画像引用元:https://www.facebook.com/PassengersMovie/

賛否が分かれたラストシーン

登場人物が少ないにもかかわらず、サクサクとストーリーが展開していくので、一気に集中して観ることができました。物語終盤のシナリオに対して否定的な意見も多かった本作ですが、個人的には結構楽しめたという印象です。よく言えば、上手くまとまったB級SF。否定的な意見の中には、ジムがオーロラに対してした行為は決して許されるべきものではないのに、あのエンディングはご都合主義が過ぎるという主張が目立ちました。まぁ、そうですね。でも私に言わせれば、じゃあ最初から危険な旅には参加するな!です。宇宙って何があるか分からない。インターステラーのクーパーみたいに、突然23年を無駄にしてしまう可能性を秘めているのですから。

 

その点、オーロラは30年90年早く目覚めた程度で済んでよかった、とも言えます。そもそもジムこそがこの映画の中で、一番の被害者かも知れません。悪いのはホームステッド社です。クルーが250人程度乗っているのは何の為でしょうか?何か緊急なことが起こった時は、クルーが目覚めるシステムのようなものがあっても良かったはずです。会社に連絡するも、連絡取れず...。無責任極まりないなと思いました。

 

改変されたシナリオ

しかし、実はこの脚本は映画化させるにあたって、変更されたもののようですね。本来の脚本では、ジムとオーロラ以外のほぼ全員が宇宙に放り出され、死亡するというへヴィな内容のものでした。このシナリオであれば、当然ホームステッド社の責任が問われる流れになるはずです。

 

監督は『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥム。限りなく過去のSF作品を意識し設定にもこだわっている、でも恋愛映画になっちゃったみたいな感じですかね。

 

ジムと出会ったばかりの頃のオーロラの浮かれ具合は、相当なものでした。ただ恋愛をしているからではありません。地球上で全く味気ない日々を送っていたオーロラにとって、ジムは王子様的な存在だったのでしょう。よって真実を知った時のオーロラのキレ具合は半端なく、恋愛をする女性の心理みたいなのが上手く表現されているように思いました。本当にジムが許せないのであれば、もっと冷たくあしらうこともできたはずですが、そうできないところがミソですね。

 

オーロラという名は、どうしても眠り姫を連想してしまう

またヒロインの名オーロラは、『眠り姫』の主人公オーロラを意識したものに違いありません。この映画が公開され、私はその半年後ぐらいにこれを観ましたが、特に当時、海外での評判が低かったようです。その理由の1つは、眠り姫を強姦神話ととらえる傾向が強まっていたからでしょう。

 

眠り姫の王子様は姫に断りなくキスをします。一方この『パッセンジャー』のジムもオーロラに断りなくポッドをいじり彼女を目覚めさせてしまいました。この眠り姫に酷似したエピソードが盛り込んであることで、ジムのイメージは大幅にダウン。更に、そんなジムがオーロラから許され、体裁よくハッピーエンドになるのは許せないということなのでしょう。

 

私は内心眠り姫を強姦神話みたく批判するのは、ちょっと厳し過ぎはしないか?と思っていましたが、仮に自分がその立場だったらどうですかね。また、眠り姫の類話である「太陽と月とターリア」の内容を知ってからは、批判の声が上がっても仕方がないなとすら思うようになりました。これは「いばら姫」の原作と言われているようです。

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眠りにおちた王女を悲しみ、父親は別れを告げて、この悲しみを忘れるために城を去る。他の者たちの描写は一切ない。その後、鷹狩りで偶然たどり着いた王が、眠る王女を見つけ、あまりの美しさに我慢出来なくなり愛の果実を摘む。そして王国へ帰り王女のことを忘れてしまう。王女は寝ている間に双子を出産し、麻糸がとれて目を覚ます。思い出した王は王女に会いに行き、出産を喜ぶ。

とりあえず王国に帰った王であったが、王女のことが気にかかり、王妃はそれに気づく。嫉妬した王妃は王の名前を装い、双子を呼び寄せ殺し、スープにして王に食べさせようとするが、子供に同情した料理人が子山羊とすりかえる。

次に王妃はターリアを呼び寄せて火焙りで殺そうとしたが、王が助けに入り、子供をスープにして飲ませたという話をきいて王は怒り狂い、王妃を火の中に投げ込む。

出典:眠れる森の美女 - Wikipedia

うわぁ、エグい。こんなおそろしい話がルーツにあるわけですから、まぁ仕方ないなと。だから『パッセンジャー』は本来の脚本でいけば、もっと面白い作品になっていたかも知れません。ちなみに船内のバーのシーンは、明らかにシャイニングを意識した造りで楽しめました。何かじゅうたんがよく似ていたと思います。マイケル・シーンの演技が素晴らしかったですね。最高!最後までお読みくださり、ありがとうございます。