アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

屈するか、それとも抗うか【囚われた国家】映画感想

囚われた国家

原題:Captive State/上映時間:109分/製作年:2019年

囚われた国家(字幕版)

監督:ルパート・ワイアット

脚本:ルパート・ワイアット、エリカ・ビーネイ

出演:ジョン・グッドマンヴェラ・ファーミガ、アシュトン・サンダースほか

 

この映画、昨年やっと観ました。ちょっと気になったのは、「宇宙へ追放される人達の乗る宇宙船」が真横に飛び過ぎじゃないか?ってことぐらいですかね?あの角度じゃ、いつまでたっても宇宙に行かないと思いますよ!あとは概ね、最高です。

 

※以下完全ネタバレ記事となります。未見の方はご注意ください。

 囚われた国家の主な登場人物(ネタバレあり)

ウィリアム・マリガン(演:ジョン・グッドマン

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画像引用元:https://www.facebook.com/captivestatemovie

元シカゴ警察官。ピルゼン特捜班の指令官で、近い内にテロが起こるだろうと予想していた人物。エイリアンに襲われ死亡したガブリエルの父とは同僚で、親しい仲だった。案外地元愛に溢れたおっさん。ジェーンは元教師だったとか、ガブリエルの子供の頃を知っているとか、そういう思い出を心に秘めている人物だったとラストで分かります。

 

マリガンを演じたジョン・グッドマンは「本作品を観て、(観客に)何を考えてもらいたいか?」というインタビューの質問に対して「”自分ならどうするだろう”と想像しながら観て欲しい、観ている間登場人物と自分を重ねて欲しいんだ」と答えています。

 

ジョン・グッドマンのインタビュー ↓ ↓ ↓

映画『囚われた国家』|ジョン・グッドマン(マリガン特捜司令官役)インタビュー - YouTube

ガブリエル・ドラモンド(演:アシュトン・サンダース)

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画像引用元:https://www.facebook.com/captivestatemovie

データ回収センターで働く青年。データを盗みそれを友人ユルギスに流し、金に換えている。でも基本的には恋人ルーラを愛しており、兄のように過激な行動は極力避けたい主義。以前のような監視されない生活を夢見ています。

 

ラファエル・ドラモンド(演:ジョナサン・メジャース)

ガブリエルの兄。ウィッカーパークで爆破テロを起こし死んだと思われていたが、実は生きていた。本作の山場となるスタジアムでのテロで、重要な役割を果たす。

 

ジェーン・ドゥー(演:ヴェラ・ファーミガ

娼館を営む娼婦。マリガンと親しい関係にあった。ストーリー終盤に差し掛かった時、この女性がフェニックスの総指揮者、「ナンバー1」であったと分かる。エイリアンから襲撃される前は、歴史の教師をしていた。

 囚われた国家のあらすじ(ネタバレあり)

地球外生命体による侵略から9年後の2027年、シカゴ。制圧されたアメリカ政府は「統治者」の傀儡と化していた。貧富の差はかつてないほど拡大し、街は荒廃。そして市民は、この圧政に対して従属する者と反抗する者に分かれた。自由を取り戻すために秘かに結成されたレジスタンス・グループは、市内スタジアムで開催される統治者による団結集会への爆弾テロを計画するが―。

引用元:https://www.captive-state.jp/

 

 ちょこっと用語解説(完全ネタバレ)

この映画の中でしか使われない言葉があって、ちょっともう忘れられてる方もいらっしゃると思うので、ここにざっくりまとめておきます。

統治者

この映画の中の人達はエイリアンたちのことをこう呼びます。

閉鎖区域

シカゴ市内の中心部の地下にある、エイリアン居住区。アメリカ政府がエイリアンからイヤイヤながら建設させられた。パリや北京にもある。

ザ・ローチ

レジスタンスを弾圧したり、怪しい動きをする人物を見つけ出し取り締まる組織。エイリアンの手下となった警察みたいなもの。基本人間。

ウィッカーパーク事件

ラファエルらが過去に爆破テロを起こした場所、ウィッカーパークの名を取りそう呼ぶ。テロなどが起こるとエイリアンはその地を焼き払うので、ウィッカーパークは廃虚と化した。

フェニックス(不死鳥)

ナンバー1の率いるレジスタンス・グループの名。ガブリエルの兄であるラファエルも、その一員だった。ウィッカーパーク事件以降消滅したと考えられていたが、新聞広告で連絡を取りあっているのをマリガンに見つかる。

 

 囚われた国家の感想(完全ネタバレ)

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画像引用元:https://www.facebook.com/captivestatemovie

 

侵略後、9年という舞台設定がミソですね。もはやエイリアン侵略中ではないので、『宇宙戦争』や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいなパニックは、もうとっくに終わってる訳です。よってこの映画は宇宙人侵略の恐怖をド派手なアクション、グロテスクなクリーチャーで見せる、といった部類の作品ではありません。本作品を単に”映像表現が地味な作品”として捉えるかどうかは、その時の気分や好みの問題もあるでしょう。

 

個人的には、むしろ非常にスリルのあるSFサスペンスだと思いました。エイリアンは平常時、監視を人間に任せじっと地下に潜伏しているのですが、人々は常に見えない何かに怯やかされることとなる。またエイリアンが全く出てこない訳でもありませんから、姿を現した時には「やっぱりいるんだ!」的な絶望感を味わうことになります。

 

統治者に媚びるチームと反発するチーム

とんでもない者の支配下に置かれた人類がエイリアンのご機嫌をとりながら、何とか日々の暮らしを営んでいる。貧富の差は相当に拡大してますが、ベッドで恋人と抱き合う程度のことは出来る毎日のようです。

 

さて、このように地球の環境が変化した時、

1.エイリアンに媚びるチームの人々

権力側=例えば本部長、ザ・ローチの一員、裕福層の人々


2.権力に対抗しようとする人々

レジスタンス=例えばラファエルをはじめとするレジスタンスのチーム、貧困層の中の反乱分子、ガブリエルやその友人ユルギスなど。


3.どちらでもない人々

「いやぁね、統治者ってウニで...」などと心の中では思いながら、日々の暮らしを重視する輩。貧困層。ガブリエルの恋人ルーラなども。エイリアンに地球の資源を搾取されながらでも、大人しくしておく方が無難と考える人達。

 

と大きく分けて、3パターンの集団に分かれたと思うのです。貧富の差が開き二分化とありますが、細かいことを申し上げれば、私は3つに分かれているなと思いました。

で、立場的には1であるマリガンがどこの人か?その立ち位置がストーリー序盤では明かされてない、という仕掛けですかね。ただ本部長が閉鎖区域へ向かう時それをじっと眺める目つきは、明らかにテロリストっぽかったですけどね(正直、笑)

 

で、こうして見ているとまんま、現代社会の縮図じゃないか!って気付かされたりします。これは宇宙人の話ではないのだな、と。また、ルパート・ワイアット監督は、この映画を撮るにあたって、『アルジェの戦い』(1966年)、『影の軍隊』(1969年)から大きな影響を受けているとインタビューで話されています。未見ですが、ぜひ観てみたいです。

 

また『パラサイト・イヴ』の作家瀬名秀明さんのコメントも興味深いので、以下リンクを貼っておきます。

一方で、スタジアムにエイリアンを招くシーンで歌手が「グローリー・ハレルヤ」を歌って、まるでスーパーボウル(※2)のように盛り上げたりするのは「幼年期の終わり」への見事な返答だと思いましたし、敵の造形はむしろあえて「プレデター」「エイリアン」などのアイコンに似せて、私たちの過去の記憶を掘り起こしているかのようであり、その点も興味深いところです。

傑作だと思います。

「囚われた国家」特集 - 映画ナタリー 特集・インタビュー

 

スタジアムでの革命シーン

大きな見せ場は、スタジアムのシーンですね。またここにいたるまでの、レジスタンスの段取りが凄い。

 

デジタルデータではすぐに見つかってしまうので、タバコの巻き紙に手書きの番号を書き込んだりして、やっぱこういう場ではアナログが強いなぁと。新聞の広告欄にさりげなくメッセージを載せ、特定の人に合図を送る手口は、羊たちの沈黙の前日譚『レッド・ドラゴン』でも観たような気がします。このやり方だと、確かにデータの監視から逃れることができるかも知れません。

 

タバコ→伝書鳩→公衆電話→レコードで特定の音楽をかける→etc...

みたいな、誰か1人でもヘマをしたら全てが台無しになってしまうので、もうみんなチョー真剣な訳です。しかも遊びでやる伝言ゲームなどではなく、こんなやり方でテロを起こすわけですから。そして遂に、スタジアムへ向かい、団結集会を台無しにしてやろうと。

 

またこのシーンのサントラがスタイリッシュですね~。いやぁ、素晴らしいです。そしてダニエルを演じたベン・ダニエルズもメチャ渋い。

 

終盤に静かなどんでん返しあり

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画像引用元:映画『囚われた国家』公式 (@CaptiveState_jp) | Twitter

どんでん返しと言っても、娼婦のジェーンは亡くなっているし、他の革命チームメンバーも次々と自殺。もの悲しさが漂います。マリガンがガブリエルに言った「敵を信じるな」という言葉は、元々歴史を教えるジェーンの言葉だった。だから、陽気に1本取られたな!などとは思えない感じです。データを消去するガブリエル、クラゲのような爆弾を貼り付けたマリガン、何ともやりきれない気持ちになりました。

 

ことマリガンに関しては「あいつは体制側に着きやがって!」というのは簡単ですが、就かされた人間側の心理は相当に複雑だと思うのです。いつかリベンジしてやる!と思いながら、格好としては従順な態度を取らなければならない。従順な態度を取れば、相手は左程酷いことをしてこないので、ほんの少し気を許してしまう。

 

権力者側と反体制側の境界に立つ人物、それがマリガンで、そのような意味ではアンダーカバー作品としての魅力もありますね。SFですがスパイものっぽい。

 

ーマッチを擦り、戦争を起こせ。抵抗する限りチャンスはある。ー

この言葉にふさわしいエンディングですね。

 

地味ながらにもこだわりの感じられるクリーチャーやオブジェクトの造形

ウニの殻のようなトゲトゲのエイリアンの造形は、アントニー・ゴームリーというイギリスの彫刻家の作品からインスピレーションを得ているそうです。殻を壊すと中にはアワビみたいなのがいて、案外弱い。現実でも、恐れられていた人物が、攻撃されると案外弱かったみたいなことはありますね(笑)

 

また本作品は、全体的に海洋生物をモチーフにしたようなエイリアンが多くて面白いです。ガブリエルが廃墟と化した地下の売店に潜り込んだ時に襲ってきたのは、タコみたいな吸盤の付いたエイリアンだったし、あと透明な爆弾はクラゲとかナマコとかを連想させられます。物静かですが、凄いディストピア世界の表現だなと...。

 

また全体的にディック原作映画に似た暗~い感じが漂ってて、メチャ面白いなと思いました。最高!最後までお読みくださり、ありがとうございます!