3月に入りようやくヨルゴス・ランティモス監督の映画『ブゴニア』を観てきましたので、今回はその感想をお伝えします。気になるのは、やっぱあのラストですよね。モヤモヤする理由や、劇中では直接言及されなかった差別問題という観点から、あれこれ考察してみました。エマ・ストーンはもちろんですが、ジェシー・プレモンスの演技も素晴らしかったですね。
本記事は映画『ブゴニア』の完全ネタバレ記事となります。映画の結末、ネタバレ部分にも容赦なく触れておりますので、未見の方はご注意ください!
- 映画『ブゴニア』の作品概要:アカデミー賞候補作としての注目点は?
- 映画『ブゴニア』のあらすじ(途中まで)
- 【ネタバレ】結末の解説:衝撃のラストシーン
- ブゴニアのラスト(結末)がモヤる理由
- 陰謀論よりも怖いのはテディのレイシスト的な側面
- テディとミシェルの会話から感じる格差
- ラストの大きなどんでん返し!受け入れ難い結末をどう解釈すべきか?
- まとめ:陰謀論・差別は世界を破滅に導く
映画『ブゴニア』の作品概要:アカデミー賞候補作としての注目点は?
原題:Bugonia/上映時間:120分/製作年:2025年
製作:アリ・アスター、ヨルゴス・ランティモス、ミッキー・リー、エド・ギニー、エマ・ストーンほか
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ウィル・トレイシー
出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、カーリー・レイス、アナベル・ウォーリス、カイリー・ロジャーズほか
凄いですよね。製作アリ・アスター、監督ヨルゴス・ランティモスって聞いて、これで観ない人がいるだろうか。さらに映画『ザ・メニュー』の製作総指揮と共同脚本を担当したウィル・トレイシーが、脚本を手掛けています。
本作は、韓国のカルト映画『地球を守れ!』を現代に合わせてアップグレードした快作です。ブゴニアの公開により『地球を守れ!』の方も、再び話題になりました。
テディ役ジェシー・プレモンスは、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の「赤いサングラスの人」としても有名。嫌なヤツの演じ方、上手いですよね。エマ・ストーン同様、ヨルゴス・ランティモス監督の常連俳優でもあります。
映画『ブゴニア』は、本年度(2026年)アカデミー賞に作品賞を含む4部門にノミネートされています。
・作品賞
・主演女優賞(エマ・ストーン)
・脚色賞(ウィル・トレイシー)
・作曲賞(イェルスキン・フェンドリックス)
注目すべきは、やはりエマ・ストーンの主演女優賞ノミネート。エマは過去『ラ・ラ・ランド』と『哀れなるものたち』で主演女優賞を獲得しました。今年3度目の受賞できるかどうかに、人々の関心が集まっています。
映画『ブゴニア』のあらすじ(途中まで)
製薬会社の人気CEOミシェルがある日突然、拉致される。犯人はそこら辺にいるような、個性のないホワイトトラッシュの2人組だった。主犯は、テディという養蜂を営む中年。もう1人はテディの従兄弟のドン。ドンは自閉スペクトラム症である。
テディはドンにミシェルの髪の毛を剃るように命令。気が進まないドンだが、しぶしぶそれに従った。テディはミシェルをエイリアンだと疑っているため、ミシェルの髪の毛が宇宙との交信に使われるツールだと信じている。2人はミシェルを家に連れて帰ると拘束し、彼女の全身に抗ヒスタミンクリームを塗った。
翌朝目を覚ましたミシェルは仰天する。「私の髪は?」と尋ねるミシェルに、テディはある要求をする。それは「4日後の月食にやってくるアンドロメダ星人の皇帝に会わせろ!」というとんでもない内容だった。
テディの考えでは、蜜蜂の大量失踪「蜂群崩壊症候群(CCD)」の原因がミシェルの経営する企業にあるというもの。テディは、ミシェルが地球に侵略してきたアンドロメダ星人だと思っているのだ。
(は?あんた私を宇宙人だと思ってるの?頭、大丈夫?)ミシェルはそんな顔をした。テディの純粋な狂気に戸惑うミシェルだが、さすが企業のCEO。テディときちんと対話をし、説得してから解放してもらおうと試みるが、テディは金銭を求めてはいないようだった。
陰謀論を妄信的に信じるテディを憐れに思ったのか、ミシェルはテディを精神患者扱い。対話で追い詰められたテディは理性を失い、ブチキレ始めるが...。
【ネタバレ】結末の解説:衝撃のラストシーン
ラストシーンでは、ミシェルが製薬会社オークソリスのクローゼットに入り、宇宙船にテレポートします。衝撃的な展開。
本当にエイリアンだったミシェル!
えっ!なにこれ。ミシェルは本当に宇宙人だったってこと????ラストシーンでは、大いに混乱させてくれました。なんとミシェルは、テディの予想通りアンドロメダ星人で皇帝張本人だったのです。
平らな地球の模型が示すもの
アンドロメダ星人のシップ内には地球の模型のようなものがあり、ドーム型の膜で覆われていました。最後にはミシェルがこの膜を壊し、全人類の生命を終わらせるのですが、なんとこの地球の模型が平らだった!ということで、ええええっーってなりました。
陰謀論者のテディからは、フラット・アーサーを想起させられます。テディの言っていたことが正しく、しかも地球まで平らだったかもしれないという、悪い冗談のようなエンディングにモヤモヤした方も多いでしょう。
陰謀論者を笑い馬鹿にしていたあなたたちも、自分で調査したんですか?常識にとらわれていただけじゃないですか?と、問われているような気がしました。高慢にならないよう、認知の過程について再認識させられる作品です。
ブゴニアのラスト(結末)がモヤる理由
すごく面白かったけど、観賞後なぜかモヤるブゴニア。その理由を考えてみました。
①人類が滅亡する暗いラスト|ミシェルの決断にも納得がいかない
まぁ、個人的にはこのラストの締めくくり方、ランティモスらしいなと思いました。でもミシェルはあれほど人類や地球のことを考えてくれていたのに何で急に?そう思った方も、いらっしゃるようです。ただミシェルが絶滅させたのは、人類だけ。
ミシェルはテディの件で、人類に心底嫌気がさしたのでしょう。テディというたった1人の差別主義者が人類の看板になってしまい、ミシェルが人間はいらないという結論を出してしまったのは、なんとも皮肉な結末です。
②テディの予想が当たっていたから
私が最初にモヤったポイントはここでした。ミシェルがアンドロメダ星人だったことや、地球の模型がお皿型だったことで、なんかちょっと裏切られたような気分になったのです。散々、陰謀論者を揶揄しておきながら、ラストこれですか?みたいな。
モヤった理由としてはたぶん、
- バイアスがかかっていたのは、自分のほうだったという意地悪なメッセージ
- 陰謀論・差別は世界を破滅に導くという正統派なメッセージ
を同時にキャッチしてしまい、作品の伝えたい内容が矛盾しているように感じられたことです。でもそれこそが、リアルであり、現実はそんな感じなんだよねって思いました。
実際、はっきり白黒つけれる問題の方が少ない。もっとわかりやすいエンディングだったら、ランティモス監督の作品の魅力はなくなってしまう気もするので、この着地で満足です。あのラストを観て、脳がバグったような感じになったことでいろいろ考えさせられました。
これらを踏まえた上で、以降の項目で私がこの作品について思ったことを書いていきます。
陰謀論よりも怖いのはテディのレイシスト的な側面
本作のテーマを陰謀論の話というより、差別批判だと思って観ると、いろんな部分が腑に落ちました。誠に勝手な個人的解釈ですが...。本作で直接的に人種差別に言及するシーンはありません。しかし、宇宙人という自分たちと異なる種族が、自分たちの世界を操っているというテディの妄想は、人種差別主義者のそれとよく似ています。
アンドロメダ星人は外国人のメタ
まぁ、これはSF映画とかによくありますから、そうじゃないのかなと思いました。テディ=レイシスト、そしてミシェル=外国人と置き換えるとわかりやすいです。
①レイシストは陰謀論にはまりやすい
②レイシストは自分の不幸を、外国人のせいにする。
③レイシストは外国人が自分の国を支配する悪者だと思っている
まんまテディです。「宇宙人だろ?」と詰め寄るテディは「なにじんか?」ってしつこく聞く自称愛国者と同じものを感じます。
テディの目的は、ミシェルを地球から追放することでした。そのことに、異様なまでに固執しています。そう考えると、ミシェルのことを宇宙人じゃないか?って疑ってて、実は本当にそうだっただけなのですが。だから何だ?って話です。
アンドロメダ星人だからと言って、地球にいてはいけないとはなりません。またアンドロメダ星人だからと言って、悪いことをしているとも限らないです。なのにテディはミシェルを勝手に悪者扱いしました。相手がアンドロメダ星人だからと言って、拉致しり、拷問していいとはならないです。
レイシストは陰謀論にハマりやすい傾向
人種差別的な考えを持つ人は陰謀論にハマる傾向にあるので、テディがレイシストであることに違和感はありません。劇中のテディの態度からも、そのことが伺えます。
例えば、本当のことを伝えた時のテディのリアクション。序盤にミシェルが、自分はアンドロメダ星人だと冗談交じりに認めるシーンがあります。ミシェルはテディに話を合わせたほうが、案外有利だと気づいたのでしょう。この時のテディのリアクションが興味深い。ちょっとがっかりしたような、なんとも言えない表情だったと記憶しています。
これはおそらく、ミシェルが堂々としていたから怯んだのでしょう。テディは、地球人じゃないミシェルが、本当のことがバレ、怖がることを期待したのだと思います。他者の異質な部分を刺激してビビらせようとする、悪質なハラスメントですね。SNSなどで、レイシストによく見られるしぐさです。
人類に貢献しようとしていたアンドロメダ星人
アンドロメダ星人を「悪」と決めつけていたテディですが、実はミシェルは人類の持つ「自殺遺伝子」なるものを消して人々を助け、地球を守ることを目的としていました。
人類の味方だったんです。でもテディが勝手な偏見と陰謀論から、不信感を募らせていたという悲劇。ミシェルを敵に回したことが原因で、自身の母親やいとこまで、死なせてしまいました。
テディは「人類」という自分の属するグループが優れていると過信していたため、「自殺遺伝子」を持っているという自分たちの落ち度に気づけなかったのでしょう。そればかりかアンドロメダ星人を追放して、救いとなる種族を遠ざけようとしてしまう。
このプロットは、差別問題を意識したものではないか?と感じました。
正義の仮面を被った無責任な犯罪
テディの残酷な行為の根底にあるのは、差別心と他者への憎しみ。相手がアンドロメダ星人だったからと言って、ここまで残酷になれるのか、という感じです。
もしかしたらテディを、SNSなんかでよく見かける奴だと舐めてかかっているかもしれない。映画の内容だと案外同情する方も多いかもしれませんが、結構な危険人物だと思いますね。本作はそんなテディの振る舞いを面白おかしく描いているコメディだから、笑っちゃいますが...。
テディはミシェルを拉致する以前にも、同様の手口を繰り返していました。このシーンが恐ろしい。何名かのアンドロメダ星人or間違えられた人間が犠牲になっています。人類を救うという大義名分を盾に、他者の命を奪っている殺人者です。その根底にあるのが異なる種族への偏見や差別。でも実際は同胞すらも〇してしまっていて、全く信用ならない人物だと思いました。これはレイシストの犯す過ちと酷似しています。
アンドロメダ星人より危険な人物になっているのに、本人はそういう自覚がなく、自分を客観視できていません。また母親絡みで辛い思いをしたからと言って、勝手に人類の代表者的なアクションを起こしてしまっている。自分がこんなことして、いいのかな?なんて考えない。無責任極まりないです。
テディとミシェルの会話から感じる格差
とにかくミシェルとテディの会話が全く噛み合ってなくて、そこが面白かったです。
カリスマ女性CEOであるミシェルと貧困層のテディでは、経済的な理由や育った環境もあってか、知性に大きな格差が生じてしまっています。圧倒的にミシェルの方が知的かつ理性的であり、テディは妄信的で典型的な陰謀論者に過ぎませんでした。
絶望すべきは、テディの馬鹿さ(まぁテディの言っていることがある意味正しかったと結末にわかる)ではなく、お互い相手の状況を想像できないほどの差が出てしまっていることです。これは本当に恐ろしい。多分、見えてる景色が違い過ぎるんだろうなと。現代社会からも感じ取れる不安が、映画の中に落とし込まれているような錯覚でした。
ただこの問題についても、差別をやめようという共通認識がもっとシェアされれば、なんとかなるんじゃないか、と感じます。問題なのはテディの排外思想であり、圧倒的な馬鹿さではないです。ただ勉強してないと、差別や陰謀論がいかに危険&有害であるか、がわからないっていうね。そこにジレンマがあります。
劇中では、エマ・ストーンとジェシー・プレモンスのピリピリした会話劇を楽しむことができました。思えば映画『ブゴニア』は、ミシェルとテディの会話シーンが大きな見どころだったように思います。
ラストの大きなどんでん返し!受け入れ難い結末をどう解釈すべきか?
結末にミシェルがアンドロメダ星人だったことがわかり、うわぁってなりましたが、冷静に考えると、テディの予想どおりだったかどうかは、さほど問題ではないなと思いました。なぜならテディの読みが当たっていたとしても、結局彼が典型的な陰謀論者であることには、変わりないと思うからです。
テディは母親の言葉を鵜呑みにし、ミシェル=アンドロメダ星人=悪という結論ありきで、証拠集めばかりに集中していました。あんなにアンドロメダ星人について調べたのに、アンドロメダ星人が人類より古い歴史を持っていたことや、恐竜を滅ぼすような過去があったことを、知らなかったのはなぜ?って思います。よってテディは、アンドロメダ星人について、実際は一部しか言い当てていません。
さらに少なくとも私が陰謀論に感じる嫌悪感は、情報が嘘だから、という点だけではないです。陰謀論をばら撒く人々の他者への悪意、憎悪、差別意識、無責任さ、このような背景(感情と態度)が不快なのです。
ミシェルを憎んだテディは、彼女を宇宙人だと信じ悪者扱いした。でも肝心なのは、宇宙人だったけど、ミシェルがそこまで悪者ではなかったことです。まぁ、ミシェルもいろいろ隠していたわけですが。さらに、残業時間についての偽善的な態度などは、確かにミシェルにもかなり問題はあるけど。
でも結局テディは、ミシェルを宇宙人と仮定した際に、彼女が無害か有害かについて検討しなかった。そうした部分が無責任だし不誠実だと思います。自分に都合よく有害だと決めつけ、慎重に考えない。そういう知ることに対しての姿勢が気に入らないんです。
陰謀論者は自分たちの主張が正しかったとき、世間から認められると思っているかもしれない。でも正しいかどうかの問題よりも、人々が感じている不快感はそこじゃない、みたいな。現に映画の結末では、テディのおかげで人類は終了したわけです。
実際テディがあの状況で、ミシェルを追放して得られるメリットなんかほとんどない。仮にミシェルの企業が潰れたら、昏睡状態の彼の母親はどうなる?そのようなことが考えられないほど、誰かを追い出したい心理状態の人間が、地球のためという名目で、手段を選ばず暴力的なふるまいをしたから不快なんです。もしミシェルが宇宙人じゃなく人間だったら?過去には失敗もあったはずなのに、謎の使命感に駆られ行動したわけでしょ。気の毒なキャラクターですが、あれは相当な危険人物ですよ。
でも蓋を開けてみると、作品の結末が陰謀論者の言ったとおりだった。だから多くの人が戸惑いを感じたのだと思います。少なくとも私はそうでした。
結局作品自体は、(もちろんですが)陰謀論を肯定しているわけではないと思います。終盤まではあれほどまでに厭味ったらしく描いている。でもね、その人たちが主張している事実が、本当だったって可能性もあるんだよ、ってことが言いたいのかなと思いました。そうなってくると陰謀論を全否定しない、とかも大事になってくるんだろうなという感じです。残念ながら私にも、属するコミュニティー内のフィルターバブルがかかっています。だからこちらも感情的にならずに、異なる意見を持つ他者の意見にもっと耳を傾けるべきなのかなと思いました。
皮肉な話ですが、テディの心配していた蜂が復活するのも面白い話です。エンディングでは、人類が他の生き物よりもわがままにやりすぎているのかな?という感想も持ちました。
まとめ:陰謀論・差別は世界を破滅に導く
陰謀論・あらゆる差別は世界を破滅に導く
陰謀論を全否定しない
私は、本作からこのようなメッセージを受け取ったような気がします。呪文のように唱えていきたい。テディは、特に何かが優れているわけでもなく、金持ちでもない。このようなごくごく普通の人間が、世界に影響を与えることができるもの。それが差別や偏見、故意によるデマの拡散、陰謀論だと思います。
アンドロメダ星人から支配され蜂も減っているという恐怖が、原動力となっていたテディ。テディの「世界のため」という間違った正義と、考えの足りなさが全人類を滅亡へ導いたのだと考えると、いたたまれない。現実には起こってほしくないことです。自分もいろいろ気をつけなければなりません。
最後までお読みくださり、ありがとうございます!






