アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

映画『エクスペリメント』の実話との違いをちまちまと検証!スタンフォード監獄実験の真実

なぜゴールデンウィークの浮かれたムードが終わった今、50年以上前の胸糞実験について書かなければならないのか?読者様とこの間、約束したからです。

 

映画『エクスペリメント』は、スタンフォード監獄実験からインスピレーションを得て作られた『es[エス]』をさらにリメイクしたもの。『エクスペリメント』のあらすじやキャスト、個人的にツボった点については、前回こちらの記事に書きました。↓

 

analogchan.hatenablog.jp

 

そしてこの記事では、いよいよスタンフォード監獄実験の実際と映画『エクスペリメント』のストーリーの違いを比較して検証していきます。さらには、映画のようなことが本当にあったのか?実験のねつ造説や盛ってある部分についても、考察していきます。

 

本記事は映画『エクスペリメント』やナショナル ジオグラフィックTVのドキュメンタリー番組『解析!スタンフォード監獄実験の真実』に触れております。映画や番組のネタバレが気になる方はご注意ください!

 

 

映画【エクスペリメント】の作品概要

原題:The Experiment/上映時間:96分/製作年:2010年

エクスペリメント

監督:ポール・シェアリング
脚本:ポール・シェアリング

原作:マリオ・ジョルダーノ
出演:エイドリアン・ブロディ、フォレスト・ウィテカー、キャム・ギガンデット、クリフトン・コリンズ・Jr

 

スタンフォード監獄実験とは?

前回の記事で書いておりますが、スタンフォード監獄実験とは、1971年にフィリップ・ジンバルドーの責任下行われた行動実験です。ジンバルドーはこの実験で「善良な青年でも看守になれば邪悪になり、囚人を虐待する」ということを証明しようとしていました。

 

実験内容は、大学の中に刑務所と同じ環境を作り、20名程度の被験者を募ってそこで生活をしてもらうというものです。この実験の結果、看守側だった若者たちが自主的に囚人側の学生を、虐めたり精神的な屈辱を与えたりしたというのが、ジンバルドーの主張。

 

スタンフォード監獄実験は、心理学の教科書に必ず載っていると言ってもいいほど、有名な実験です。映画『es[エス]』や『エクスペリメント』などの題材にもなっています。

 

映画『エクスペリメント』と実際のスタンフォード監獄実験はここが違う!

ナショジオのスタンフォード監獄実験の番組の画像

画像引用:解析!スタンフォード監獄実験の真実を配信で見る | Disney+(ディズニープラス)

映画『エクスペリメント』は『es[エス]』のリメイクですが、元ネタとなっているのは、1971年の夏に実施されたスタンフォード監獄実験です。この章では、実際に行われたスタンフォード監獄実験と『エクスペリメント』の細部を比較していきます。

 

※スタンフォード監獄実験の情報については、主にナショナル ジオグラフィックTVのドキュメンタリー番組を参考にしています。

 被験者の人数

映画のほうが、実際の実験よりも被験者の人数は多めです。

映画:26名

被験者に選ばれたのは男性26名。6名が看守グループ、20名が囚人グループに振り分けられました。実話と比較すると、囚人グループの人数が異様に多いですね。これは終盤の見せ場である逆襲シーンを派手に演出するためか?などと勘ぐりました。また映画では成人した社会人の男性が被験者に選ばれています。

実話:20名前後

実話の方で被験者になったのは大学生です。実験の被験者になりたいと応募した学生は、70人。その中の学生(男)21人が選ばれました。看守グループは11名、囚人グループは10名といわれていますが、看守グループが10名で、囚人グループが11名という情報もあり、諸説あります。ナショジオからの情報では看守役12名、囚人役10名が被験者になったらしい。いずれも被験者の数は、全部で20名前後で映画よりは少ないです。

 

 実験の期間と中止

実は期間は、映画と実話で同じなんです。いずれも6日間で終了。でもその理由や細部が映画と実話では違います

映画:14日間の予定が6日目で崩壊

映画では5日目ぐらいから囚人グループが反逆を起こし、6日目には全員で看守をボコりました。よって赤いランプが点灯。「囚人はいかなる状況でも看守に触れてはならない」というルールに触れたからか、看守役による囚人グループへの暴力も禁じられているにも関わらずこれらが過激化したことで、ブザーが鳴って実験終了となったのだと考えられます。

実話:2週間の予定が6日間で中止に!

実際には、1971年の8月14日から8月20日まで実験が行われました。実験が中止になった理由は、ジンバルドーの当時の彼女クリスティーナが、実験の映像を見てドン引きしたからです。恋人がその残酷さに涙を流し、ちょ、何コレ、やめなさいよと注意したので、ジンバルドーはようやく実験を終わりにしようと決意したのです。

 

Wikipediaによれば、被験者の家族らが弁護士を介入し実験の中止を訴えたからだという説もあるようです。その話では、ジンバルドーが実際の刑務所で囚人にカウンセリングをしている牧師に、囚人グループの様子を検証してもらっていました。

 

この牧師が囚人グループの危険な精神状態を把握し、やりすぎだと非難。しかしジンバルドー博士が実験に夢中で強引に続行したため、牧師が大学や家族へ連絡したということになっています。

 

うーん、どっちが本当なのか?また看守グループは、「DAY0」という訓練日が用意され、ここでアレコレ言われているんです。囚人に厳しくしろなどの方向づけがされていました。

 

 模擬監獄への囚人役の移動手段

映画:バス

囚人グループも看守グループも同じバスに乗り込み、模擬監獄へ向かいます。この時被験者は、囚人役か看守役かなど、詳細を聞かされていない様子でした。

実話:パトカー

1971年のスタンフォード監獄実験では、囚人役の被験者の家に行きパトカーに乗せ警察へ連行するなど、凝った演出がなされています。

 被験者の日給

映画:1000ドル

日給1000ドルなので、相当高めの金額設定となります。映画『エクスペリメント』の中で、トラヴィスは報酬を受け取り、その後インドに渡っています。まぁ、それぐらい稼げたということでしょう。登場人物たちがムキになるのも、無理ないですね。

実話:15ドル

実際の被験者のインタビューで、日当は15ドルだったと被験者が話しています。1971年当時ですが3食と宿泊付きで15ドル。最低賃金だったと言っていますが、今で言うと2万円ぐらいでしょうか?被験者になった人たちは、皆バイトにしては悪くない金額だと思っていたようです。ただ囚人役からすれば、リタイアしたくても、なかなかさせてもらえないことを考えれば、馬鹿馬鹿しくてやってられない金額だったことでしょう。

 

 囚人グループの服装

映画:囚人服

映画『エクスペリメント』では、模擬刑務所の中で、看守グループと囚人グループそれぞれに衣類が配られました。囚人グループは、ベージュか生成色のような囚人服を着ていました。終盤に、囚人グループが囚人服を脱ぎ捨てるシーンは印象深いです。

実話:スモッグ

ベージュか生成色のスモッグみたいなのを着せられていました。下着も履いておらず、頭にはストッキングみたいなのを被らされていたので、とんだ羞恥プレイですね。さらに囚人役の足には鎖のようなものまで付けられていました。スモッグには、それぞれ番号が貼られていて、その番号で呼ばれます。人間性を奪うような行為で、見ていてムカついてきますね。

 

囚人役の被験者は、刑務所に入る前に警察に、指紋まで取られています。また被験者は、自宅までパトカーが来て連行されるところを、近隣の住人に見られたらしいです。ジンバルドーはこの様子まで、記録映像を撮っていました。模擬刑務所に入る際も、人を穢れ者みたいに扱って、劣等感を抱かせています。

 

 看守グループの服装

映画:紺色の制服

映画『エクスペリメント』の看守の服装

画像引用:エクスペリメント : フォトギャラリー 画像(2) - 映画.com

映画『エクスペリメント』で看守グループが着ていたのは紺色です。警備員や警察官みたいに見えますね。映画なので、見栄えや囚人役との対比が考慮されたのかもしれません。

実話:カーキ色の制服

カーキ色の制服を古着屋で渡されたと、被験者が語っています。警棒とサングラスも、支給されました。

 

 死者は出たか?

映画:1名

映画『エクスペリメント』では、糖尿病患者のベンジーという囚人役が、死亡しました。死因はハッキリしませんが、おそらく病状が悪化し弱っている時に、バリスに警棒で殴り倒されたからだと考えられます。ここは看守グループが囚人役に対してひどいことをした、という実話部分を盛って、大げさな表現になっていますね。

実話:なし

1971年に行われた実際の実験で死者が出たという話は、出ていません。当時被験者だった人たちの誰も、そんな話はしていないようでした。

精神的にヤバくなった囚人役が、リタイアしたという情報もありますが、これは多分ダグ・コルピという人なんです。ダグは、独房に入れられたから大げさに発狂したふりをしたと後に語っています。ただね、実際の映像と再現映像を見ると心底デイヴに腹が立ちますよ。デイヴはインタビューで、ダグに対して「あいつは弱虫」とか言ってるんです。ホント、あいつはクズ野郎で嫌い。ダグは実際、精神的に相当まいっていたのではないかと考えられます。

 

 看守役の態度

映画:バリスの豹変ぶりがヤバい

主にはバリスと他2名が横暴で、他3名はまぁまぁ良識あるとかめっちゃいい人とかでした。全部の看守役が狂ってたわけではないです。そこはまぁ、実話と同じです。

最初はいい人そうに見えたバリスが、日が経つにつれ権力に溺れていく姿を誇張して描いています。

実話:最初から比較的威圧的な人がいた

通称ジョン・ウェインが笛を持っていて、ことあるごとにピーピー吹くんです。自分のことを「刑務官殿」と呼ばせたり、腕立て伏せをさせたり、子供扱いして歌を歌わせたりしています。わりと最初から、こんな感じでひどい。

退屈した囚人グループが遊び半分に反逆を起こしてからは、ジョン・ウェインらもより囚人役に厳しくなっていきます。罰として囚人服を脱がし全裸にして、囚人役同士の足を鎖で繋ぐなど、めちゃくちゃでした。

深夜2時とか4時に、不必要な点呼を行うなどのいじめをしていました。この部分は映画『エクスペリメント』にもあります。ただ次の章で触れますが、実話では看守が演技をしているような部分もあって、ビミョーなんです。

 

 食事を拒否

映画:主人公が食事の一部を拒否

『エクスペリメント』では、主人公のトラヴィスが出された食事に文句を言い、食べるOR食べないで揉めたあげく、トラブルに発展しました。この映画の中では、囚人グループは出された食事を全て食べなければならないという決まりになっているので。トラヴィスは、見た目に問題のあるソースを拒否しただけなのですが、この事件がきっかけとなりバリスが頭角を表すようになりました。

実話:クレイ・ラムジーがハンスト

ダグと交代で入ったクレイ・ラムジーという知的で大人しい囚人役が、看守の態度にNOを突きつけるため、ハンガー・ストライキをやりました。デイヴはムカつき、クレイを独房に入れましたが、本人はプライバシーが確保されたと語っています。この後の話が本当に超胸糞展開なので、よかったら番組を見てみてください。ディズニープラスで、配信されています。

 

被験者本人が出演しているナショジオの【解析!スタンフォード監獄実験の真実】

youtu.be

 

前述しましたとおり、本記事ではスタンフォード監獄実験の実話について、ディズニープラスで配信されている、ナショナル ジオグラフィックTVの『解析!スタンフォード監獄実験の真実』という番組を参考にしています。この番組は3つのエピソードに分かれていて…

 

【シーズン1 】1.廊下
【シーズン1】 2.解明
【シーズン1】 3.美しいウソ

 

という構成なんですが、とにかく「1.廊下」のパートがヤバい。1971年当時の実験で、看守役をやっていたデイヴ・エシュルマンという男が出てくるんですが、このインタビューがまぁひどいです(笑)この人は50年以上経っても、看守目線で偉そうに当時のことをどや顔で話すヤツで。もう、聞いててムカついてくるぐらいでした。バリスともちょっと違った感じのタイプの人で、ジョン・ウェインというあだ名がついていたみたいです。何というか、全然すまなさそうにしてない。ところが「2.解明」まで観ると、その理由がわかってきます。

 

尚デイヴは大学1年の時に社交クラブで苛められるなど、様々な屈辱を経験した過去があったらしく、残忍な方法を思いつくことができたと語っています。

「2.解明」は、フランスのティボー・ル・テクシエによって、この実験がイカサマだと言及されるパートです。若い学生が権力を与えられただけで、無情な看守のようになる。私たちの誰もがナチスのようになる可能性がある。これがジンバルドー博士が導きたかった結論でした。

 

しかしスタンフォード監獄実験の記録映画を作ろうとしていたテクシエは、「記録を精査すると、公式発表は嘘だとわかった」と語っています。記録と公式発表の間に大きなくい違いがあったのです。テクシエは、約6時間の映像と15時間の音声資料をはじめ、看守の日誌など膨大な記録を読み漁っています。そして彼は、保管庫の中に衝撃的な資料を発見。それによれば、看守グループには、DAY0となる訓練日があったらしいのです。この日に看守役の全員が呼ばれ、実験の説明がされていました。ケント・コッターという男性は、自分は説明を聞いて実験への参加を断ったと語ります。ケントの話では、看守による虐待が仕組まれていると感じた、実験の方向づけに見えたと。

 

これによれば、看守グループが積極的に刑務所のルールを作ったというジンバルドーの発言も、嘘だということになります。ジンバルドーは、看守グループに対して「脱獄したら実験中止」や「暴力は禁止」など簡単なガイドラインしか与えていない&看守の訓練はしていないと言っていますが、実際は訓練してるじゃんか、ということなんです。

 

ここで例のデイヴ・エシュルマンがシャシャリ出てきて「刑務所の悪い環境を証明するのが目的だという共通認識があった」みたいなことを言い出し、自分は大義のために役割を演じたんだと言い出すんです。自分は正義の側だとでも言いたげでした。いやいや、あんたは間違いなくイジメを楽しんだ側やろ!て思いましたね。ジンバルドーが世間から責められ立場が悪くなったから、寝返った可能性もあります。

 

囚人役だったダグは、最悪の看守役も何人かはいたが、ぬるいヤツもいたと言います。

一方俳優を目指し演劇にのめり込んでいたデイヴは、実験に入ってから嫌な看守になったのではなく、あらかじめ悪役を演じるという認識だったそう。『暴力脱獄』の刑務所長を真似ようとしたそうです。ただ、ケント・コッターのように良識があれば、実験に参加などできないはずですがね。デイヴは、囚人に対してぬるい看守役がいると、注意までしてたんです。

 

ただ実は看守グループは、囚人グループのみが実験対象だと思っていました。自分たちも被験者だとは知らされていなかったらしいのです。スタンフォード監獄実験が行われたのは1971年の8月。同じ1971年の9月にアッティカ刑務所暴動が起こった際、ジンバルドーはここぞとばかりに自身の研究の結果を発表します。善良な人も冷酷な看守になると。複数名の看守役をした人たちが、自分も実験対象だったと知りショックを受けていたようです。彼らは自身が、実験の手伝いをしていると思ってやっていたのですから。

 

ジンバルドーの実験に興味を持ったテレビ局が、看守の倫理観の悪化を大げさにアピールし番組にします。

看守グループは、事前にジンバルドー博士から囚人グループの反応を見るためだと聞かされており、意識的に看守らしくしていた可能性もあります。まぁこれは、看守グループを思い通りに動かしたいというジンバルドーの意を皆が汲んだからかもしれません。

 

通常の科学実験では、求めている結果を得るために、介入なんかしないとテクシエは、語ります。

 

「3.美しいウソ」ではジンバルドーの生い立ちについても触れられています。メディアの寵児になるとは思っていなかったと話すジンバルドー。

 

また美しいウソのパートでは、実験の演劇的な作為の要素について触れられています。なんと1971年の実験を理解するために、同じセットを作り若者に演じてもらうという試みがなされていました。そこへ当時の被験者たちが招かれ記憶を辿りながら「あそこはこうだった」とかあーだこーだアドバイスするという企画。ほんと、どうかしてますね。こうやってこの番組の再現映像が作られたのだと思います。

 

映画と実話の共通点・大きな違い

 共通点

看守役から囚人役への暴力が禁止されていること。また消火器の放射や深夜のいやがらせ的な点呼は、実話からの引用と言えるでしょう。抗った囚人役を、独房に入れる点も同じです。

 

あとは全ての看守役が嗜虐的だったわけではないという部分も、実話と映画で共通していまっす。

 

 大きな違い

一方映画『エクスペリメント』では糖尿病患者が亡くなりますが、実際の実験では死者は出ていないようです。そこが映画と実話で大きく違っていますね。

またそもそも実話では、看守役の人たちは自分たちが被験者だと知らなかったわけですから、看守グループと囚人グループの全員が被験者だと最初からわかっていた映画『エクスペリメント』とは違います。また映画のほうは、看守グループに対して具体的な指示が出されていないので、看守がより自発的に環境の力に飲まれ権力を振りかざしたような印象でした。

 

スタンフォード監獄実験には倫理的な問題も

番組「解析!スタンフォード監獄実験の真実」の画像

画像引用:解析!スタンフォード監獄実験の真実 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト

 

「暴力は禁止」と言えど、相手が歯向かえないような状況で、大声で怒鳴りつけ恥をかかせるなど精神的な虐待を数日行った罪は大きいと思います。特に、囚人グループの方たちのトラウマは大きいでしょう。

 

またジンバルドーは、実験のリタイアを許しませんでした。ダグという囚人役の話では、ここから出たいと申し出たため、独房へ入れられてしまったようです。ダグは、ギャーギャー喚き、心理的に自分は限界だというような発狂した演技をすることで、ようやくこの実験のリタイアが許されました。まぁ、このエピソードを聞く限り、妙な行動実験に参加するもんじゃないな、という感想ですね。しかしこのような環境下でもハンガーストライキを起こした人がいたことには、ある種の希望が感じられます。

 

まとめ

比較してみると、案外さまざまな気付きがありました。例えば映画では何の実験かを知らされていないのに対し、実話では刑務所での実験だと新聞で見たと皆が語っています。これだと攻撃性や社会的支配指向を持った人ほど、実験に参加したがる可能性もあっただろうな、などいろいろ考えさせられました。

 

とはいえ、私のこれまでの人生経験から言えば、社会的に強い立場を得るとチョークズになる人もいるので、ジンバルドーの言いたいこともあながち分からなくもないです。権威主義の人などは危険ですね。最後までお読みくださりありがとうございます!