アナログちゃんのこっそり映画鑑賞記

自宅でこっそり鑑賞した映画についてぽそぽそつぶやきます。

人間の集団心理の怖さ【ミスト】映画感想★完全ネタバレ

ミスト (字幕版)

原題:The Mist/上映時間:125分/製作年:2007年

監督:フランク・ダラボン

原作:スティーヴン・キング

脚本:フランク・ダラボン

出演:トーマス・ジェーンローリー・ホールデン、ネイサン・ギャンブル、トビー・ジョーンズマーシャ・ゲイ・ハーデン

 


映画 ミスト 予告編

 

【映画ミスト あらすじ】完全ネタバレ

随分前に公開された映画なので、完全ネタバレで書かせて頂きます。もしも未見の方がいらっしゃいましたら、このレビューを読まずに鑑賞される事を強くお薦め致します。

※それでも敢えて、ラストのオチだけは書きません。

 突如襲ってきた大嵐

主人公のデヴィッド・ドレイトンは人気の画家で、映画ポスターなどの依頼を受けています。ある日彼がアトリエで絵を描いていると、突然大きな嵐に見舞われました。そこで彼は妻ステファニーと、息子のビリーと共に地下室に逃げ込みます。

 

翌日になってみると、家の周囲は荒れ果てていました。隣人のノートンとは普段あまり仲良くないのですが、デヴィッドはこの嵐のせいで車1台パァにした彼に幾分同情します。スーパーマーケットへ食糧などを買い出しに行かねばと考えたデヴィッドは、ノートンと息子のビリーを乗せ車を走らせます。

 

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画像引用:http://moviescreenshots.blogspot.com/2010/09/mist-2007.html

 

 田舎町のスーパーマーケットで足止めを食らう

スーパーマーケットへ着くと昨日の晩の大嵐のおかげで店内は停電しており、普段以上のお客で大繁盛していました。田舎町なので皆顔なじみの様で、それぞれ会話をしています。薄暗い店内。

 

そこへ男が駆け込んできて「連れが何者かに襲われた」と言い出したり、激しい地震が店内を襲った事により、これまでの和やかな空気はがらりと変わります。よくよく見ると、スーパーマーケットは深い霧に包まれている。人々はそれを不安な眼差しで見つめます。

 

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画像引用:http://www.horrorhomeroom.com/apocalyptic-religions-mist/

 

そんなタイミングである女性が、「私帰らなきゃ」と言い出します。彼女は幼児を2人、家に置いてきたのだと。自分は車を持っていないので、誰か送ってくれないかと頼みますが、引き受けてくれる者はおらず。周囲の人々は「今店内から外に出てはダメだ」などと言い彼女を引き止めますが、彼女は怒って出ていきます。

 

そんな風にしてスーパーマーケット内のお客は家に帰る事が出来ず足止めを食らい、あまり親しくない者同士、店内で一晩過ごす羽目に。デヴィッドはビリーの為に倉庫へ毛布を取りに行こうとし、若い女教師アマンダにデヴィッドを預けます。

 

しかし倉庫では、とんでもない惨劇が待っていました。突如若い従業員ノームが、シャッターの向こう側にいた魔物に命を取られます。デヴィッドの警告を聞き入れなかった、ジム・グロンディンは若者を死なせてしまった事に甚く反省。

 

倉庫に居合わせた人達は先程起こったこの奇妙な出来事を、店内の皆に伝え危険を知らせます。しかしそこへ弁護士のノートンが出てきて「超常現象?お前ら頭おかしいのか?」と反論。皆は起こった事件を直接目撃したわけではないので、彼らが急にオカルトチックな突拍子もない事を言い出したと解釈します。

 

しかし店長が倉庫の魔物の触手を実際に目撃した事などから、大半の人達は尋常ではない事態に見舞われていると理解。ガラス張りのスーパーマーケットに魔物が入って来ぬ様、ドッグフードや肥料をやたらと積み上げ災難に備えようとします。しかしミセス・カーモディだけは作業にも参加せず、「神がお怒り」などと言い手伝いません。店内のお客らはそれを、「何この人!」という目で見ています。

 

 状況はどんどん悪化し、人々は追いつめられる

その後も「今すぐここを出る!」と言い出す人が出てきたり、夜中に巨大な昆虫みたいな化け物が現れたりして、スーパーの中は大惨事。

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画像引用:https://www.popsugar.com.au/celebrity/photo-gallery/30866017/image/30866003/Mist

 

負傷者が出た為翌日デヴィッド達は、すぐ隣にあるドラッグストアまで薬を取りに行きます。しかしそこでますますおぞましい光景を、目の当たりにしてしまいます。耐え切れなくなったジムの精神は崩壊。いきなりミセス・カーモディを支持し始めたりします。

 

更には店内に3人いた兵士の内、2名が自殺。残された軍人のウェインは、遂に軍で流れている噂について話します。霧の正体はアローヘッド計画の事故によるもので、それは軍の科学者によるミスであったと。よって異次元の世界の魔物が入り込む様になった。ただ彼は科学者ではないし、何も知らないに等しい訳です。地獄絵図と化した店内を、妄信的な宗教信者ミセス・カーモディイカレた思想が支配し始めます。

 

 ミセス・カーモディの信者が急増

この宗教おばさんが言うには、人間のおごりが神の怒りに触れたから。月面を歩いたり(笑)、幹細胞の研究をしたからこの様な現象が起こる。よって信仰深くなれと。こんな事になったのはウェインのせいだと言出した為、彼は急に増えた彼女の信者の1人に刺されます。更にカーモディは生贄を出す必要があるとかメチャクチャな事を言い出して、まだ若い軍人のウェインをあっさり犠牲にします。残酷過ぎる。その後彼女は「今日は、魔物が大人しいでしょう」と言い切ります。あんたが一番怖いわ!

 

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画像引用:https://www.hotflick.net/pictures/007MST_Marcia_Gay_Harden_007.html

 

この時点で店内の大半の人が、彼女の言いなりになるという異常事態。その晩ここにいるのはもう危険だと察した副店長らは、翌早朝にでも店からの逃げ出そうと言います。メンバーはデヴィッドと息子のビリー、アマンダ、副店長のオリー、アイリーン、ダン、マイロンらです。しかし彼らの行動はカーモディに読まれていた様で(1人だけ起きている・・・)、今度はビリーが生贄にされそうになる。そんなバカな?とアマンダが子供を必死に庇い、遂には副店長がカーモディを射殺。

 

 何とかマーケットから飛び出すも、全員は助からず

デヴィッド達は車に乗り込みますが、生き残ったのはデヴィッド、ビリー、アマンダ、アイリーン、ダンの5人のみとなりました。霧の中車を走らせるデヴィッド。そして衝撃の結末へと向かいます。

 

 

【映画ミスト 感想】完全ネタバレ

霧に覆われたスーパーマーケットの中の人達が、クリーチャーにタジタジになり精神的に衰退、その後店内は狂気の世界に変わっていくという大傑作ホラーです。

 

原作はスティーヴン・キング。監督は『ショーシャンクの空に』などの、フランク・ダラボンです。

 

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本作品はそんなキング先生+オタクダラボンの黄金コンビで作られた、3作品目となります。(ちなみに2作品目はグリーンマイル)。きっとダラボンはキング原作モノの中でも、初めてホラー作品を映画化できると大喜びだった筈。

 

またミストは無念すぎるバッドエンドで有名ですが、このエンディングはキング原作の『霧』には無かったものでした。映画でのあの衝撃的な希望の無いラストは、フランク・ダラボンからの提案。キングは彼が持ち掛けてきたエンディングのアイデアをたいそう褒め、自分が思い付けなかった事を悔しがっていたとすら言われています。

 

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画像引用:https://horrorfreaknews.com/mist-2007-review

 

さてこの映画はホラー映画ですが、これはオカルト的な恐さとはちょっと違う。私の解釈としては、途中からしゃしゃり出て来る宗教おばさんや物事をあまり考えない人々が、この話の肝だと思うのです。確かにキング原作ものだしショッキングな描写や、先の読めない展開など通常のホラー作品としても楽しめますが、やはり一番怖いのは普段はおとなしい町の住民が豹変していく姿を目の当たりにする事ではないかと思いました。

 

してはいけない事も、平気でしてしまう集団心理の怖さ

この作品が恐ろしいのは、この様な非常事態が起こった時の集団心理、群集心理がありありと描かれているから。普段は善良そうに見える田舎町の人々が、極度の恐怖体験をした事により、若い軍人を1人犠牲にする事に対してどうとも思わなくなる。

 

群集心理が関係して引き起こした悲劇は魔女狩りホロコーストをはじめ、たくさんあります。しかしこの問題は非常に難しいし、私がここで何か言う事ではないかなと。

 

でも日々のちょっとした時に、集団心理の奇妙さを垣間見る気がします。居酒屋でも2、3人の飲み会だと静かなのに、10人、20人となると大声を上げたり一気飲みをしたりして、同じ人が急に周囲の迷惑を考えなくなる気がする。また昨今のハローウィン騒動なんかも、考えさせられますね。あとはスポーツイベントで起こる暴動など。集団になると道徳観が薄れるのかなと。私は昔から集団行動が苦手なので、この様な群集心理に敏感なのかも知れません。

 

本作ミストでは一見おとなしい田舎町の人々が、置かれた状況により如何に残酷な事をし得るか?がドキッとさせられる程上手く描かれていると思います。

 

 

カッコウの巣の上での婦長と同レベルで憎い、ミセス・カーモディ

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画像引用:https://stephenkingsthemist.fandom.com/wiki/Mrs._Carmody

 

ビリーを生贄にするからよこせと言い出した時には、この宗教ばばぁ本当に死ねばいいのにと思った。でもその直後に副店長に、あっさり射殺されました。やるな副店長。最後まで生き残って欲しかったです。(ちなみに副店長を演じたのはトビー・ジョーンズ)そして2発目の弾が撃ち込まれた時、ハッとする感じ。何とも言えないです。

 

確かに子供を犠牲にするなんて、それ自体あってはならない事ですが。このおばさんが怖いのは、妄信的過ぎて自分の思想に全く疑いが無い。そしてそれを周囲の人に押し付けてくる訳ですよね。責任感が全く感じられない。

 

スケールは小さくとも、実生活にも似た様な事はたくさんあると思います。例えば企業などの組織内でも。恐怖に突き動かされた人々が取る態度や、判断、選択はいずれもロクなもんじゃないと思うのです。

 

あれよあれよという内に、人々の態度が変わる

一昨日まで気が触れていると思われ、倦厭されていたミセス・カーモディが圧倒的な支持を得るまでの経過時間が圧倒的に短い。彼女の周りにわんさかと集まる人々を見て、えっそんなに急に?と思いました。映画の中の話だからとは思えない。現実でもきっとこうなのだろうと思うと、心底ゾッとします。ジムを筆頭に、彼らは考える時間があまりに短い。それが映画の尺に、表れていると思います。もしくは集団になると、考えないのかも知れない。極度の恐怖に煽られているからと言って、デヴィッドや副店長、アマンダみたいな選択が出来る人達もいる訳ですよね。ここでアメリカの閉鎖的な田舎町が舞台である、という設定が活きてくる。

 

立場的に不利な人物やマイノリティを犠牲に

軍人であったウェインは、確かに皆が知らない事情を知っていた。彼はその事に対して、ある種の後ろめたさを持っています。更には他の2名が自殺した事で仲間が減り、疑いの目が向けられ立場的にも相当に弱くなった。そこでジムや宗教ばばぁは、ウェインをただ軍人だからという理由スケープゴートにした。彼は直接研究に携わった訳でもないのに、NEW信者達もホント頭悪いなと思いました。

 

マイノリティやその状況に置いて立場的に不利な人、変わり者などを盾にする卑怯者達ばかりで呆れます。そんな事をしたって物事は具体的に何も解決しないし、真実も見えてこない。臆病者達がホッとする為に、彼が犠牲になったのが許せない。私も臆病ですが(笑)、弱虫なら弱虫なりにもっと別の手を考えられるようになりたいです。

 

じゃぁ自分は本当に大丈夫なのか?

この作品を観ている時自分は観客ですから、デヴィッドやアマンダの側に感情移入しがちです。自分は彼ら側の人物であると思っている。もしくはそう思いたいのです。でも心構えや仕組みを知る事なしに、彼らと同じ行為が本当に取れるのかな?とか少し思いました。

 

また超常現象や自然現象を理解したり、コントロールしたりする事は、余程の専門家でない限り難しく感じられます。少なくとも自分は頭が悪いので無理(笑)。しかしこの様な逆境に遭遇した時の人の心理などは、あらかじめ頭で分かっておくと、ちょっとしたトラブルやハプニングが起こった際にも幾分良いのではないかと思いました。だからもっと勉強しようと(笑)。1人1人の認識により、少なくとも二次災害が起こらない様に努める事は出来るのではないかと思いました。

 

何でも多数決で物事を決める恐ろしさ

例えばウェインがNEW信者らに取り囲まれている時も、主人公らはそれを必死で止めようとします。でも人数が少なくて腕力で負けてしまう。それが何とも悔しいです・・。いっその事主人公が、ドウェイン・ジョンソンとかであれば良かったのに!どう考えてもデヴィットや副店長らの方がまともな判断をしているのに、無念です。

 

人の数が多くなると、それだけで強気になっていく民にイラーッ。その場その場で自分らの都合の良い様に、意見をコロコロ変えたりする人達が勢いを増すのは如何なものかと。そもそも正しいか間違っているかをよく考えもせず、大半の意見がそうであるという理由だけで、自分らが正義だと思い込める理由がよく分かりません。これは相当にヤバい。

 

霧って案外怖いね(汗)

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画像引用:https://theiapolis.com/movie-2UFT/the-mist/gallery/thomas-jane-david-drayton-and-laurie-holden-1087627.html

 

この映画のタイトルにもなっている霧。普段は1年に1度も霧に遭遇する事なく、生活しているのでイマイチピンと来てません。しかし5m先とかがぼんやりして見えないとかなり不安だし、ストレスも相当に溜まるんじゃないかと。

 

スーパーマーケット内の人々は、軍が何かを隠していて自分達に正しい情報が来ていない事に薄々気づいている。それを皆上手く言葉に出来ない。そのモヤモヤが怒りや恐怖となって、攻撃的になり犠牲者を出してしまった。軍が情報を公開しない=霧というスタイルで表現されているのが面白いなと思いました。

 

 

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みんながそう言っているから正しいとは限らない、という事を限りなくリアルに感じさせられた作品。ストーリー序盤で幼い子供を2人家に置いてきたという女性は、スーパーマーケット内のお客全員の言う事を無視して、店を飛び出します。無謀な事をするものだ、誰しもがそう思った筈。でも母親で子供を置いてきてしまったのなら、無謀に思えてもそうせずにはいられないかも知れない。

 

主人公のデヴィッドや副店長らは、店内のその他大勢よりは随分マシな行動を取った。でも彼らの取った行動が必ずしも正解と思えない所が、この話のミソだとも思います。

 

個人的には人の恐さ>霧の恐さ>化け物の恐さという印象です。

 

ストーリーの大半がスーパーマーケット内で進行していくにもかかわらず、絶えずスリリングな展開を見せてくれてありがとうと言いたい。大規模な密室劇っていいもんですね。ラストが衝撃的過ぎるので、ついついそちらの話題になりがちですが、群像劇としても楽しめるのではないか?と私は思ったりしています。

 

 

そしてあのエンディング・・・。あぁ。イジワルダラボンめ!

 

 

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