ハイライズ【映画感想】人はなぜ高い所に住みたがるのか?
ハイライズ
原題:High-Rise/上映時間:119分/製作年:2015年
監督:ベン・ウィートリー
原作:J・G・バラード
出演:トム・ヒドルストン、ジェレミー・アイアンズ、シエナ・ミラー、ルーク・エバンス、エリザベス・モスなど
【あらすじ】(ネタバレ有り)
フロアごとに階級が分けられ、上層階へ行くにしたがい、富裕層となるという新築タワーマンション。このコンセプトを考案した建築家アンソニーの誘いで、マンションに住み始めた医師のロバートは、住民のワイルダーと知り合い、マンションの中で起こっている異常事態を知ることとなる。
【感想】(完全ネタバレ)
資本主義においての貧富の差を表しているとか、色々な解釈がなされている様ですが、難しくてよく分かりませんでした。すいません。
『スノーピアサー』が超長い列車内でのヒエラルキーを描いたものだとすれば、『ハイライズ』はタワー内に住む人々の階級制度みたいなものが描かれています。縦と横の違い。まだ未見の方は、こちらと比較しながら鑑賞すると面白いのではないかと思います。
スノーピアサーはかなりグロなシーンと、キョーレツに笑えるキャスティングとのギャップが特徴的ですが、ハイライズの方はグロいけど何処かゴダールっぽいおしゃれっぽさもある様な気がします。美しい・美しい・グロい・美しい・グロいの映像を繰り返され、吐きそうになる方もいらっしゃるかもしれませんので、注意が必要です。それから犬好きの者としては、犬に対しての残酷な描写などがあり、これにもかなり凹みました。
ハイライズと言っても蛭子さんが履かれている様な股上が深いズボンの事ではなく、この作品に出てくるタワーマンションの名前です。
監督はベン・ウィートリー。舞台はとある超高級タワーマンションです。主人公の医者ロバート・ラングが、このタワーハイライズの25階に引っ越してきます。ラングを演じるのはトム・ヒドルストン(冒頭からいきなりの無駄脱ぎシーン有)。
画像引用:https://ameblo.jp/irusutyuu/entry-12322156054.html
セクシーなラングはここの住民とすぐに打ち解け、パーティーなどにも参加します。この建物は超リッチで、この中にいれば困る事はほとんどないといった風。ジムやスーパーをはじめ、プールなど生活に必要な施設は完璧に揃っていると言っても良いでしょう。
相当に贅沢な暮らしをしているタワー内の人々ですが、なぜか時折見せるどんよりとしたムード。またダストシュートが狭いから大きいゴミ袋はダメとか、超肝心な所が出来ていない建物でもあります。
このタワーの設計者アンソニー・ロイヤルは最上階に住んでおり、この人の奥さんが超わがままな上に、屋上で馬にぱかぱかと乗っていたのでホント笑ってしまいました。でも屋上で乗馬が出来るぐらいの広さなので、相当にリッチですね。いつの時代?と思っていたら、この原作は1975年に発表された作品の様です。
その後この設計者ロイヤルがロボトミー手術がどうのとか言い出すのですが、それもこの時代の作品ならではないかと思います。
そしてだんだんこの建物の中にも階級があり、上の階にいく程お金持ちが住んでいる事が分かってきます。ざっくりと言ってしまえば上・中・下に分かれていて、ラングは25階に住んでいるのでこの建物の中では中流となります。
そしてある日突然停電が起こった事をきっかけに、このタワー内の見せかけだけの秩序が壊れていくという展開。停電ビフォーアフター。電気が足りなくなった際に、優先的に上のフロアに供給され、子供をたくさん抱えた下層部のフロアの人々の部屋は、電気が止まったままでした。この事にキレた下層部の人々が反逆を起こします。
このタワーマンションには、ラングの勤める大学病院の教え子であるマンローという男も住んでいます。しかし彼は親が金持ちで、ラングよりも上層の39階に住んでいたのでした。この事で嫌味を言われたラングは、大学病院でマンローにちょっとした嫌がらせをするのですが、これがかなり悪質でその事が原因で取り返しのつかない事に。
画像引用:https://www.niwaka-movie.com/archives/5009
そして一気にえええっーって展開になる所が良いです。しかも惨事が起こっているのに、一向に警察が来ない。そこでこの建物はやっぱりちょっとおかしいな、と皆が気付くという流れです。
更に3階に住むワイルダーは、テレビプロデューサーと言う職業柄、事の真相を暴こうとします。荒っぽい男ですが、ラングも言う通り彼だけは一番まとも。後の人達はラングも含めて、全然なっちゃいないのです。ちなみにワイルダーを演じるのは、ルーク・エヴァンス。個人的には彼は冷たい男の役の時が好みですが、この役も良いですね。
またスノーピアサーは列車から降りる事がほぼ不可能と思われる状況から、登場人物達が必死で降りようとするのですが、このハイライズはビルの中の住民が一向に出て行こうとしないのがポイントです。
散々な目に遭っても幼い子供がいても、この高級タワーに住んでいるプライドが出ていく事を許さない(様に見える)。もしくはこのタワー全体が社会の縮図として表わされている、という解釈も出来るかもしれません。
しかし外部から冷静に客観的な目で見れば、ある程度の金持ちなのだから、よそでそこそこ良いマンションに住めば、子供にもすぐにたくさんのご飯を食べさせてあげれる訳です。
でもここの人達はおそらくこのタワー内の住民である事に執着してしまっているので、絶対に出ていかないでしょう。スーパーマーケットの食糧が全て無くなっても、何日も風呂に入れなくても出て行かないですよきっと(笑)。設計者のアンソニー・ロイヤルの思うツボなのでしょう。
客観的に鑑賞者として観ていると、バカだなぁと思う事でも、案外この手の事は当該者になってしまえば、周りが見えなくなるのかなとも思います。そこが怖い。その不気味な感じが、上手く描かれていると思います。
また高い所に住めば必ずしも良いという訳ではない、という教訓でもあると思いました。足りない食糧、なぜかたくさんある酒とたばこ。この作品の中の人々は実によくたばこを吸うのですが、これも70’のムードが出ていて良かったと思います。
それからラングがペンキを塗るシーン。これはやはりゴダールっぽいなとも思ったのですが、不覚にも20代の頃に観たシクロという超トラウマ映画を思い出してしまいました。
画像引用:http://kmot.blog9.fc2.com/blog-entry-322.html