失踪消失系映画【ファインド・アウト】これは妄想か?現実か?
ファインド・アウト
原題:GONE/上映時間:94分/製作年:2012年
- 監督:エイトール・ダリア
- 脚本:アリソン・バーネット
- 出演:アマンダ・セイフライド、ジェニファー・カーペンター、ダニエル・サンジャッタ、セバスチャン・スタン、エミリー・ウィッカーシャム他
【あらすじ】
「TIME タイム」「レ・ミゼラブル」のアマンダ・セイフライドが主演し、全米で社会問題化している「ミッシング・パーソン(=人が消える)」という不条理な現象を題材に描くスリラー。1年前に何者かに拉致・監禁されたと訴える女性ジル。しかし、警察の捜査でも証拠は何も見つからず、ジルは心の病からくる虚言症と断定され、捜査は打ち切られてしまう。しかし後日、今度は妹モリーが失踪してしまい、ジルは同じ犯人の仕業だと主張するが、警察は聞く耳を持たない。孤立無援の状況下で、ジルは原因不明の失踪現象の裏に渦巻く真実に迫っていく。
【感想】ネタバレ全開
鑑賞し終わった後、何処かがスッキリしないと感じました。さすがに主人公ジル(アマンダ・セイフライド)の妄想だった・・・みたいなオチでなかったのは幸いです。しかしジルは狂ってると思わせる様な演出をしておきながら、この手の映画にありがちなお決まりのラスト。結果これはこれで、何故か裏切られたような気持ちになり着地に違和感を感じました。
この作品が楽しめるか否かは、前半部分で主人公ジルをどの様な視点から見ているかによって大きく違ってくる様な気がします。私はジルを少々意地悪な目で見ていたもので、乱暴な着地の仕方だなと思ってしまいました。しかし逆に、最初からあの警察官の方を疑って見ていれば、そういう映画には見えなかった筈ですね。おそらく、後半のストーリーをもっと楽しむ事が出来たのではないかと思いました。
けれどもそう出来なかったのは、主人公のジル(アマンダ・セイフライド)があまりにも身勝手だったから。ゴーイングマイウェイな上、口が達者で周囲の人にコロコロ嘘をつき騙していくので、どうも好感が持てませんでした。まあ、主人公は町の人達から全く信用されておらず、精神病者の扱いを受けているのですからそうなってしまうのも無理はありませんが・・・。派手なアクションはそこまでないものの、物語はテンポよく進行されるのでサクサクと鑑賞出来ました。
妹のモリーが這う這うの体で家に帰ってくるシーンあたりから、本格的にジルの主張が正しかった事が明かされてくるのですが、このタイミングから気持ちを切り替えるのではちょっと遅すぎです。結果ジルに感情移入出来てない状態から、終盤にかけてのあの展開が始まってしまい「心の準備が出来ていないんですけど・・・」という状態に。この事は私としては不満ですが、どの様な目線で鑑賞するかによって、映画の結末の印象が変わってくるという点に於いては興味深いと思いました。
再度観返してみると、ジルがあらゆる場面で生き生きとしていて美しく感じられました。ラスト、警察から何があったのかと質問され「実在しないのよ、妄想だから」 と返すジルのセリフが心に染みます。
【リーアム・ニーソン主演映画】フライト・ゲーム
フライト・ゲーム
原題:NON-STOP/上映時間:107分/製作年:2014年
監督:ジャウム・コレット=セラ
出演:リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、ミッシェル・ドッカリー、コリー・ストール、ルピタ・ニョンゴ他
【あらすじ】一部ネタバレします
ニューヨーク発ロンドン行の旅客機に乗り込むビル・マークスは連邦航空保安官。しかしビルは飛行機に乗り込む前に、車の中でアルコールを一杯ひっかける程のアル中に。
飛行機が無事に離陸すると、今度はトイレに行って煙草を一服するビル。しかし席に戻ったビルに乗客の中の一人だと名乗る者からメールが届く。メールの内容は「指定口座に1億5000万ドル振り込まなければ、機内の誰かを20分に1人殺す」といった不気味な内容。
ビルは顔見知りのフライト・アテンダント(ミッシェル・ドッカリー)やたまたま隣の席に座った女性(ジュリアン・ムーア)の協力を得て、乗客の中から犯人を見つけ出そうとするが、ついには1人目の犠牲者を出してしまう。この事に動揺し落ち込んだビルの言動は、次第にエスカレートしていく。
今だとGYAOで無料視聴出来るみたいです。(2017年6月18日現在)。
【感想】ネタバレ全開(「アンノウン」「フライトプラン」「バルカン超特急」の内容にも一部ふれています。ご了承ください。)
この映画は3回程鑑賞しましたが、細部の辻褄が合っているのかどうかが良く分からないです。また「20分ごとに機内の誰かを1人殺す」と言われてきっかり20分ごとに、犯人の言う通りの事が一応起こる訳ですが、起こらない可能性もあった訳でその事が少し気になります。またストーリーの後半に犯人が明かされると、果たしてこの人達にそんな事が出来るのかなと思いました。そんな具合にミステリー映画としては、???な部分もありますが、それはそれ。アクションもキレるしジャンル映画として、非常に楽しむ事が出来ました。
劇中のストーリーは中だるみせずテンポ良く進み、むしろ一度に情報を把握しきれないくらいでした。乗り物パニック映画的要素や犯人は誰か?などの謎解き要素。それに加え、失踪消失系映画に似た傾向が強く本当は分かっている筈なのによく分からなくなる感覚にグラグラと陥っていくのが本作の面白い所。ミスリードにより自分が正しいと思っていた事が疑わしくなってくる為、じわりじわりと迷いが発生します。更に主人公ビル・マークスはかなりギリギリの所まで追い詰められていくので、スリル感や臨場感も充分に味わえます。
この映画を鑑賞しながら、まず思い出したのは「フライト・プラン」でした。あとはバルカン超特急などにも似ています。主演がリーアム・ニーソンなので、不安感は何倍にも割増。以前にアンノウン(2011年のリーアム・ニーソン主演の方)を鑑賞していたので尚更です。要所要所に映し出される彼の困り顔は、サブリミナル効果の様に徐々に私を不安にさせてくれました(笑)。
本作は、ほぼ機内のみで繰り広げられる密室系サスペンス。管制塔や心配する家族らの描写はありません。それにしても緊迫感のあるスリリングな作品だと感じるのは、操縦室、トイレ、ビジネスクラスの客室、エコノミークラスの客室、などに次々とカメラが切り替わりその上犯人とのメールのやり取りが頻繁に行われるからではないかと思います。犯人から届くメールの見せ方がセンス良いです。
監督はジャウム・コレット=セラ。この作品を撮る前にアンノウン(2011年)という作品がやはりリーアム・ニーソンとのコンビで撮られています。そしてこの映画も、やはり主人公は何者なのかが途中まで分からないです。こちらの方はオチがちょっと意外でした。
キャビアアテンダントの内の一人(ルピタ・ニョンゴ)がグウェンという名で出演していて、おやっと思いました。あの有名なエアポートシリーズの一作目「大空港」のスチュワーデス(ジャクリーン・ビゼット)の名がグエンだったので。グウェンは急な欠員が出た為ヘルプでこの飛行機に乗ったのですが、それがこんな事件に巻き込まれるなんて最悪ですね。
全体的に緊張感漂うムードの中でちょっと笑えたのは「飛行機代無料!」とビル・マークスが叫ぶと乗客が急に黙るシーン。これはいける!と思ったらしいマークスは「言う通りにするのなら、1年間国際線が無料」って大声で宣言します。乗客はそんなに事態は深刻なのか?という不安から黙ったのでしょうか?ビジネスクラスの客室を閉鎖という尋常じゃない事態を見せつけられながら、「1年間無料!ラッキー」と思える乗客は相当に楽観的でタフだと思います。
お約束の飛行機から降りる描写も納得がいくもので、大満足です。
レゴですが本物の予告篇とそっくりに作られていて素晴らしいです。
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映画【パニック・トレイン】ネタバレあり
パニック・トレイン
原題:LAST PASSENGER/上映時間:97分/製作年:2013年
- 監督:オミッド・ノーシン
- 脚本:オミッド・ノーシン、アンドリュー・ラブ
- 出演:ダグレイ・スコット、カーラ・トイントン、デビッド・スコフィールド、イド・ゴルドバーグ、リンゼイ・ダンカン
【あらすじ】ネタバレあり
舞台はロンドン発タンブリッジ・ウェルズ行の列車の中。医者である主人公ルイスは、幼い息子と共に帰宅の途中だった。若者が騒ぎ賑やかだった車両内も、とある駅でほとんどの乗客が降りていき列車内はガラガラ状態に。
しばらくしてからルイスは列車の停車中、レール付近に倒れている人を発見。この事を車掌に報告しようとするが、あいにく見つからない。その上降りる予定だったトンブリッジ駅へは停車せず、あっさりと通過してしまった。何かがおかしいと感じたルイスは運転士と話をしようとする・・・。
【感想】ネタバレあり
ケーブルテレビの無料オンデマンド(見逃しチャンネル)で観る事が出来たので鑑賞してみました。
この映画は最初にタイトルバックがパッと出るのですが、原題LAST PASSENGERのロゴがシンプルなのに格好良くておおっーって思いました。
この作品の監督をしているのはオミッド・ノーシン。低予算でトレーラーを制作し、投資を呼びかけたのだそうです。
わずか500ポンドでつくった予告編をネット公開して投資を呼びかけ、集まった約250万ドルで制作された作品。
日本映画の平均的な製作費よりちょっと安いぐらいですかね?。(ドルの事はあんまりよく知りませんが・・・)。その割に結構ゴージャスな見せ場とかもあって、やるな!と思いました。確かに前半部分にアクションはほとんどありませんが、手に汗握るヒヤヒヤ感は結構味わう事が出来ました。
『サブウェイ・パニック』『サブウェイ123激突』『アンストッパブル』などと比較すると、やや静かめなサスペンス色が強い作品。予告編の派手目なアクションは、物語の後半部分です。ストーリーの前半はほぼ会話劇と言っても良い程何も起こらず、「何かがおかしいぞ?」と早い内に気付くのは主人公であるルイスのみ。見逃す程短いカットであっと驚くシーンがあるのですが、乗客はこの事に気付かないです。
主な登場人物が6名と少なめで一人一人のキャラが全く違う為、乗っている人を覚えるのが簡単でした。この手のパニック映画で搭乗者の数があまりに多いと、ストーリーを追う事以外にも人物を把握するのが大変でややこしくなる事が、私にはしばしあります(笑)。キャラかぶりも出来ればやめて欲しいですね(間違ったりするので・・・)。
それからあの一等席が良いですね。(バルカン超特急の様な向かい合わせの個室)。列車もので、あの座席のスタイルが出て来ると何故か嬉しくなります。
ラストになっても犯人の存在は、最後まで明かされないままですね。意外と犠牲者が多く出てしまった事がショックです。無賃乗車のヤンが言うジョークは、本当どうかしてると思いますがほのぼのムードに。あえて言えば、主人公が助かる所をもっと明確に見せて欲しかったです。
舞台がほぼ列車の中だけに限定されている為、密室系のサスペンスとして楽しむ事も出来ました。スッキリとした良作だと思います。
【カプリコン・1】10分間観ればこの映画に引き込まれる
カプリコン・1
原題:CAPRICORN ONE/上映時間:129分/製作年:1977年
- 監督:ピーター・ハイアムズ
- 脚本:ピーター・ハイアムズ
- 出演:エリオット・グールド、ジェームズ・ブローリン、カレン・ブラック、テリー・サバラス他
【あらすじ】
有人火星宇宙船カプリコン1は、今にも打ち上げられそうになっていた。乗組員は、ブルーベーカー、ウィリス、ウォーカーの3人。彼らはカプリコン1に乗り込み、発射まであと3分。がその時思わぬ事態が発生する・・・。
【感想】ネタバレあり
この作品は、TSUTAYA発掘良品にも選ばれているみたいです。よく知らないで何気に観た分、面白いものを観た!としばし興奮しました。この映画を、公開当時リアルタイムで鑑賞出来た人がうらやましいです。まだ鑑賞されてない方は、この映画の情報を極力入れずに鑑賞する事をおすすめします。私は3回ぐらいこの映画を鑑賞しましたが、やはり最初に観た時の感動は大きく、ストーリーを知っているか否かは本作を楽しむ上で重要な要素になってくると思うからです。
監督はピーター・ハイアムズ。彼の監督作品では「サウンド・オブ・サンダー」というSF映画もおすすめです。ちなみにこちらはタイムトラベルものです。
ここから先は、完全にネタバレします。未見の方はくれぐれもご注意下さい。
事実を捏造し隠す事が実際に可能なのかどうか?は私には分かりませんが、映画作品としては非常に楽しむ事が出来ました。まず映画という虚構の中にもう一つ虚構があるという構図が、新鮮でした。スクリーンの中にもう一つSF映画の様な火星のセットが組んであるという描写は何処かしら奇妙であり、斬新でもありました。
まさかのテレビ放送にて火星着陸を中継
この時個人的に通信チェックをしていた研究熱心なオタク青年エリオットが、宇宙船の信号よりも先にテレビ信号が先に届く事に気付くがのですが彼は後に行方不明になってしまいます。
更に打ち上げから223日。クルーと夫人らが交流する日が来ますが、子供の作文などを聞かされたりして堪らないですね。でも家族を殺す様な事をほのめかされ、脅されたのだから仕方がありません。「ブルーベイカーさん、あなたは悪くない」そう言いたいです。
カプリコン1に異常事態が発生!予想しなかった方向にストーリーが展開
そして遂に 着陸予定の日・・・。カプリコン1の耐熱シールドに異常が発生。シールドが剥がれると、宇宙飛行士らは生きて帰れなかった事になる。会見で調子の良い言葉がぽんぽん出て来るケラウェル博士には、ホント唖然とします。ここで疑問なのは耐熱シールドに異常が出たのは博士らの計算外だったのか?否かという事。しかし事が起こった直後に博士が誰かに電話を入れているシーンがあるので、さすがにこれは計算外であったと私は解釈しました。
身の危険を感じ取り、逃げ出す宇宙飛行士ら3人
事実は伝えられていないにしても、自分らの身の危険を感じた飛行士たちは、逃げる事を決意します。ジェット機に乗り込み逃亡する3人ですが、燃料不足を確認していなかった・・・(笑)。宇宙飛行士なのにそのミスはないよ!!と思いましたが、切羽詰まった状況だったのだから仕方がないですね。
記者コールフィールドが、職を失いながらも全面的に協力
もう一人のヒーローであり記者のコールフィールド(エリオット・グールド)が何かが変だと気付いたおかげで、事件と認識されていない事件は解決に向かっていきます。「早く誰か気付いてあげてよー」って思っていた私も、少し落ち着いて鑑賞できる様になりました。ちなみに皮肉をいいながらも彼に協力する女性を演じるのはカレン・ブラック。『エアポート'75』でものすごい表情で飛行機の操縦をしていたスチュワーデスですが、今回の彼女はクールに車を運転していました。個人的には、今回の役柄の方が好みです。
全く別のところで協力者が現れるというのが、『カプリコン・1』の面白い所。妙なリアリティを感じました。しかしこれはブルーベイカーが、夫人に誰にも気づかれない様なメッセージを送ったからでもあります。その時すぐに効力は無くても、こうやって徐々に協力者が現れる事もあるのだと思いました。記者コールフィールドはいわれもない罪で捕まったり、仕事をクビになったりしてさんざんな目にあいながら、事件の真相を追ってゆく。記者のプロ魂を感じました。
望み通りのラスト、ケラウェル博士は微妙な表情
手に汗握るヘリとの格闘シーンは秀逸。実際に飛んでいる様な感覚で、ぐるぐるしてちょっと酔いそうになりました。黒ヘリに対しての農薬攻撃が堪らないです(笑)。
ラストシーンは、一瞬だけアップになったブルーベーカー夫人の驚いた表情が印象的。マスコミのカメラが、一斉に走り寄ってくるブルーベイカーとコールフィールドの方へ向きを変えます。呆然としているケラウェル博士ですが、次なる手をまだ何か考えている様にも見えてイラッ!。個人的な感想を言えばあと3分ぐらい先まで観たかった様な気もしますが、事実が証明できてスッキリとしたラストに納得&満足しました。
スピルバーグのデビュー作【激突】タンクローリーに追いつめられる恐怖
激突
- 監督:スティーブン・スピルバーグ
- 原作・脚本:リチャード・マシスン
- 出演:デニス・ウィーバー他
【あらすじ】
主人公デヴィッド・マンは知り合いから貸したお金を返してもらう為に、待ち合わせの場所へと車を走らせていた。車の前方には、タンクローリーが大量の排気ガスを容赦なく吐き出しながら、のろのろと走っていた。しびれを切らしたデヴィッドは、タンクローリーを追い抜いた。しかし後部に位置したタンクローリーは、それまでにはないスピードを出して追い抜き、再びデビッドの車の前にピタリと付けのろのろ運転。デヴィッドは前の車をもう一度抜きスタンドに入った。デヴィッドがスタンドを出ると、今度は先ほどのタンクローリーが猛スピードで後ろから煽ってくるではないか?この意味不明で奇妙な行動をとるタンクローリーにイラつくデヴィッドだが、時間が経つにつれて自分が狙われているのだと判断する様に・・・。
【感想】完全ネタバレ
スティーブン・スピルバーグのデビュー作。砂漠の中の1本道を、ただただひたすらタンクローリーがものすごいスピードで追ってくる恐怖を描いた超傑作だと思います。主人公がしてしまった事は、「目の前をのろのろ走っているタンクローリーの排気ガスが嫌だったから、何気に追い抜いた」たったそれだけの事。それがタンクローリードライバーの勘に触ったのか、ものすごい勢いで煽ってきて主人公のデビッド・マンを脅かします。こんな事で逆恨みされたのでは、日常生活の全ての自分の行いをいちいち振り返らなければいけませんよね。カラッと晴れた空とだだっ広い自然を映し出しながら、この閉塞感は何だろう?と思いました。若くしてコレを創るなんて、やはりスピルバーグは天才なんですね。
劇中の画像ではありませんが、こんな感じの所です。
この作品はスティーブン・スピルバーグのデビュー作ですが、この頃からもうすでに彼のイジワル描写が始まっていると思います。大人が困っている時に、無邪気にはしゃぐ子供などがそうですね。スピルバーグらしいなと思います。
また「激突」はもともとテレビ映画として製作されたものです。原作・脚本は「縮みゆく男」などの小説を書いたリチャード・マシスン。彼は映画「地球最後の男(1964)」の原作者でもあります。
不条理な仕打ちに対する恐怖
激突の面白い所は、とんでもない仕打ちを受けているにも関わらず、それを観て主人公が自分を責めている様にも見てとれる事だと思います。タンクローリーの運転手が時折鳴らす不気味なクラクションは、悪意そのものですね(笑)。特に何もしていない主人公が悪意を持たれる事自体、非常に不条理です。ちょっと追い抜いただけで「気に食わねえ」と仕返しされるのではたまったもんじゃない。どうもこの気の毒な主人公に、感情移入してしまいます。
これから一体どうするんだろう?でも非常にすがすがしいラスト
自分の行いを省みる者は若干弱気になり、その様な事を一切考えない者は他人を責めてばかりでどんどん強気になる。例え映画の中とは言えども、モラル・マナー・法律を一切無視して生きていく者に怖いもんなし、みたいな話にはなかなか共感できません。だからこそラストが痛快で良い。車は1台パァにしているし、帰りもどうするんだという所ですが、このすがすがしさは何だろう?もうヘトヘトな筈なのに、見えない敵に勝利して軽くジャンプをする主人公は子供の様に無邪気です。いずれにしても敵が見えないという状況が、如何に窮屈で精神的ストレスを与えるものなのかという事を考えさせられました。
タイムアクセル12:01
タイムアクセル12:01
原題:12:01/上映時間:94分/製作年1993年
- 監督:ジャック・ショルダー
- 原作:リチャード・ルポフ
- 出演:ジョナサン・シルバーマン、ヘレン・スレイター、マーティン・ランドー、ダニー・トレホ他
【あらすじ】
科学研究所の人事部に勤めているバリーは、今一つ仕事が出来ずにクビ寸前。その日の朝も遅刻をし、女上司にデスクの上が散らかり放題だと指摘される。その上博士の部下2人の社員登録を抹消してしまっており、訂正を求められる始末。
バリーは以前から密かに思いを寄せているリサと言う名の女性がいるが、彼女は博士の研究に直接携わっている研究員だった。その日どういう訳かランチを選んでいる時にたまたまリサに声を掛けられたバリーは、舞い上がってしまい上手く話せず、トンチンカンな発言を連発。共にランチを過ごす事は出来なかった。
その日の夕方、バリーが仲の良い同僚と帰宅しようとしていたら、研究所の前でリサを見かける。リサは花屋から赤いバラを買っていた。それにうっとり見とれているバリーと友達だが、その時・・・・。
【感想】ネタバレ全開
『恋はデジャ・ブ』をご紹介したのでそれと類似した映画『タイムアクセル12:01』もご紹介します。奇しくもこの2つの作品の公開年は共に1993年。ほぼ同時期にこの様な類似した作品が公開された事は興味深いです。
原作は、リチャード・ルポフの「12:01 PM」。またこの「12:01 PM」は1990年に短編映画としても映画化されていて(タイトルは12:01 PM)、これはアカデミー賞の短編映画賞にノミネートされています。
監督は『バーニング』や『ヒドゥン』などで有名なジャック・ショルダー。
いい奴なんだけど結構ダメなトコがたくさんある主人公バリー・トーマスを演じるのは、ジョナサン・シルバーマンです。
あらかじめどの様な映画か分かって鑑賞したのですが、始まって20分も経たない内に衝撃的な展開があって「えええええー」って思いました。つまりこの映画は主人公バリーの時間が繰り返される事によって、問題解決の為に役立つ様な仕組みになっています。
バリーが2周目のループに入っている時、その事実に気付くのがあまりに遅くてイライラしました。割れた筈の花瓶が元通りになっていたり、昨日と全く同じニュースが流れていたりと色々ヒントが出て来ているのに、二日酔いのせいにしたりしてなかなか気付いてくれません(笑)。研究所のオフィス内では周囲の人の服装は毎回同じなのに、バリーのシャツとネクタイの色だけが毎回変わるのがちょっと切ないです。同じ日が繰り返される内に徐々に物事の真相が明白になっていくといったスタイルなので、退屈したり飽きたりせずに、鑑賞する事が出来ました。
最初は要領が悪くて困った人だなと思って観ていたバリーですが、どんどん格好良くなっていくのが分かります。口うるさい女上司に逆切れするシーンなんか最高です。
どうせこいつが黒幕なんだろうと思っていたデンクは、予想に反して正義感の強い良い男でした。バリーには悪いけどもう一周ループして、出来れば彼を救って欲しかったです。
ラストはややバッドエンド(意外でした)でありながらも、リサの命を救うことが出来た事からラブラブムードの二人。ちゃんと翌日が訪れた事に狂喜したバリーの表情から、同じ一日を何度も繰り返す事が如何に地獄であるかがよく伝わってきました。
(余談)
バリーの持っている目覚まし時計がかわいくて欲しくなりました。こんなヤツです。
あとは刑務所に入れられた囚人の役で、『マチェーテ』のダニー・トレホがちょこっと出演しています。バリーが「今日の繰り返し」と嘆くと、囚人は「それがブタ箱暮らしさ」とクールに答えます。シブい。
エドガー・アラン・ポー原作 世にも怪奇な物語
世にも怪奇な物語
原題:Histoires extraordineires/上映時間:122分/製作年:1967年
監督:ロジェ・ヴァディム(第1話「黒馬の哭く館」)
:ルイ・マル(第2話「陰を殺した男」)
:フェデリコ・フェリーニ(第3話「悪魔の首飾り」)
原作:エドガー・アラン・ポー
アラン・ドロン、ブリジッド・バルドー(第2話)
テレンス・スタンプ、サルヴォ・ランドーネ(第3話)
本作はエドガー・アラン・ポーの怪奇幻想小説の3作品を、それぞれ三人の映画監督が映画化したオムニバス作品です。第3話の【悪魔の首飾り】があまりにも恐すぎる事で有名ですが、私個人としては第2話の【影を殺した男】が一番興味深かったです。
第1話「黒馬の哭く館」
【あらすじ】
メッツェンゲルシュ・タイン伯爵夫人のフレデリック(ジェーン・フォンダ)は22才。若くして莫大な財産を相続した。日々自由奔放で、退廃的な生活を送るフレデリック。近くの城には、従兄のウィルヘルムが一人で住んでいたが、両家は数世紀にもわたって犬猿の仲だった。ウィルヘルムは馬や狩猟以外の事にはほぼ無関心だった。
ある日、キツネ猟の為の罠にかかってしまったフレデリックは、近くにいたウィルヘルムに助けを求めた。(かなり上から目線で)。しかしこの出来事以来フレデリックはウィルヘルムの事が忘れられなくなり、遂には彼の城まで自ら出向く。フレデリックは、彼を自分の城に招待するもあっさりと断られる。
それまで好き放題生きてきたフレデリックは、人から拒否された事などなかった。激しい怒りと嫉妬を感じた彼女は、家来にウィルヘルムの厩に火をつける様に命じるが・・・。
【感想】ネタバレあり
わがまま放題やっていたフレデリックですが、裕福であっても自堕落な生活からは何も得るものがないと何処かで分かっていた様にも思えます。しかしそこから脱出する唯一の希望と言っても良い存在の、従兄のウィルヘルムを自分自身のせいで失ってしまった。彼の大切にしていた馬を攻撃するなんて相当なゲス野郎ですが、彼女もまさかウィルヘルムが馬の身代わりになって死ぬとは思っていなかったのでしょう。自業自得ですが、この若さでこの事件は相当にキツイですね。以後、ウィルヘルムの魂が乗り移ったであろう不思議な黒い馬とだけ時間を共にするフレデリック。空虚に流れていく時間を埋めるには、それしか選択肢がなかったのではないかと思われます。
しかしおとなしくなったのかと思いきや、あのラストシーンはやはり官能を追及する姿であり衝動を抑える事が出来ない彼女の性格がよく露われていると思います。彼女は結局以前と何も変わってないなと思いました。この有り様では、きっと運良くウィルヘルムが生きていたって、ロクな事ないと思います。
第2話「陰を殺した男」
【あらすじ】ネタバレあり
子供の頃からサディスティックな気質を持つウィリアム・ウィルソン。寄宿学校では同級生を苛める問題児。しかしある日彼が好き放題やっているといると「ウィリアム・ウィルソン」と名乗る同姓同名の良き少年が現れ、そこでイジメは中断されます。ウィルソンは、常に善人である方のウィルソンに監視されている様な気になり、それが不快の原因に。
大人になってからも、更にたちの悪い悪戯を試みるウィルソン。しかし今度は容姿がウィリアム・ウィルソン(アラン・ドロン)そっくりの善人が現れ、被害にあっている人を助けます。しびれを切らした彼は遂に・・・。
【感想】ネタバレ全開
たまたま点けたテレビで、アラン・ドロンがブリジッド・バルドーの背中を鞭打つシーンを観てしまったのが、この作品との出会いです。なんじゃこりゃー(汗)。その後の展開も見入ってしまいましたが、ラストが更に衝撃的!その後、たまたまドッペルゲンガーを題材にした映画を調べていたら、この作品が『世にも怪奇な物語』の中の1作品だったのだ!と分かりました。
自身のドッペルゲンガーと戦うストーリーの中で、悪い人の方が主役の作品は珍しい気がします。後々ちゃんと見返して気付いた事は、ウィルソンの周りの連中も悪事を止めようとしない事。じっと見ているだけで、いけない人達です(笑)。そして良いウィルソンが登場すると、すっと帰ってしまいます。
子供時代には寄宿学校を放校となったウィリアム・ウィルソン。二人共が放校になったという事から、この二人は顔は違えど同一人物であるとみなして良いでしょう。大人になっていくにつれてますますサディスティックな趣味がエスカレートしていくウィルソンに対して、善ウィルソンも負けずに現れては悪行を阻止しようと試みます。
見所はやはり悪アラン・ドロンと、善アランドロンがフェンシングで対決するシーン。あとはアラン・ドロンとブリジッド・バルドーがトランプの賭けをするシーンです。涙を流した美しいブリジッド・バルドーが、アラン・ドロンに平手打ちを食らわすシーンは、脳裏に焼き付いてなかなか離れてくれません(笑)。
第3話「悪魔の首飾り」
【あらすじ】
落ち目であるイギリスの俳優トビー・ダミッド(テレンス・スタンプ)は、フェラーリという報酬を条件にイタリア映画の出演のオファーを引き受けます。アルコール中毒であるトビーは、イタリアの空港に降り立った時からもうすでにフラフラ状態。映画製作をする人たちに迎え入れられ、イタリアのオスカーの授賞式へと向かいます。「黄金の狼」という賞を受賞したトビーですが、周囲から明らかに浮いている様子。場の空気に馴染めずついつい酒を飲み過ぎてしまいます。
遂にはスピーチでも「自分は偉大な俳優なんかじゃない、何故私を呼んだのか?」とキレはじめステージから走り去ります。オスカーの受賞会場を後に、トビーは用意されていた約束のフェラーリを受け取りますが・・・。
【感想】ネタバレあり
3作品の中でダントツに怖いです。フェリーニ監督がこんな恐ろしい作品を手掛けるとは・・。主人公であるトビー・ダミッド(テレンス・スタンプ)が白いボールを持った女の子の幻覚を見るのですが、この少女の表情が鳥肌もののおぞましさです。
トビー・ダミッドがフェラーリをゲットしてからは、ずっと何かが起こりそうな不気味な描写続きです。アルコールをさんざん摂取した俳優トビーの目線で、車が暴走する様を鑑賞し続けるのはちょっとつらかったです。
そしてギョッとするラストシーン。意外な展開です。リドリースコット監督作の『悪の法則』のある超ショッキングなワンシーンはこの映画のラストシーンととても似ています。あの恐さはここからきているのかなと思いました。