スピルバーグのデビュー作【激突】タンクローリーに追いつめられる恐怖
激突
- 監督:スティーブン・スピルバーグ
- 原作・脚本:リチャード・マシスン
- 出演:デニス・ウィーバー他
【あらすじ】
主人公デヴィッド・マンは知り合いから貸したお金を返してもらう為に、待ち合わせの場所へと車を走らせていた。車の前方には、タンクローリーが大量の排気ガスを容赦なく吐き出しながら、のろのろと走っていた。しびれを切らしたデヴィッドは、タンクローリーを追い抜いた。しかし後部に位置したタンクローリーは、それまでにはないスピードを出して追い抜き、再びデビッドの車の前にピタリと付けのろのろ運転。デヴィッドは前の車をもう一度抜きスタンドに入った。デヴィッドがスタンドを出ると、今度は先ほどのタンクローリーが猛スピードで後ろから煽ってくるではないか?この意味不明で奇妙な行動をとるタンクローリーにイラつくデヴィッドだが、時間が経つにつれて自分が狙われているのだと判断する様に・・・。
【感想】完全ネタバレ
スティーブン・スピルバーグのデビュー作。砂漠の中の1本道を、ただただひたすらタンクローリーがものすごいスピードで追ってくる恐怖を描いた超傑作だと思います。主人公がしてしまった事は、「目の前をのろのろ走っているタンクローリーの排気ガスが嫌だったから、何気に追い抜いた」たったそれだけの事。それがタンクローリードライバーの勘に触ったのか、ものすごい勢いで煽ってきて主人公のデビッド・マンを脅かします。こんな事で逆恨みされたのでは、日常生活の全ての自分の行いをいちいち振り返らなければいけませんよね。カラッと晴れた空とだだっ広い自然を映し出しながら、この閉塞感は何だろう?と思いました。若くしてコレを創るなんて、やはりスピルバーグは天才なんですね。
劇中の画像ではありませんが、こんな感じの所です。
この作品はスティーブン・スピルバーグのデビュー作ですが、この頃からもうすでに彼のイジワル描写が始まっていると思います。大人が困っている時に、無邪気にはしゃぐ子供などがそうですね。スピルバーグらしいなと思います。
また「激突」はもともとテレビ映画として製作されたものです。原作・脚本は「縮みゆく男」などの小説を書いたリチャード・マシスン。彼は映画「地球最後の男(1964)」の原作者でもあります。
不条理な仕打ちに対する恐怖
激突の面白い所は、とんでもない仕打ちを受けているにも関わらず、それを観て主人公が自分を責めている様にも見てとれる事だと思います。タンクローリーの運転手が時折鳴らす不気味なクラクションは、悪意そのものですね(笑)。特に何もしていない主人公が悪意を持たれる事自体、非常に不条理です。ちょっと追い抜いただけで「気に食わねえ」と仕返しされるのではたまったもんじゃない。どうもこの気の毒な主人公に、感情移入してしまいます。
これから一体どうするんだろう?でも非常にすがすがしいラスト
自分の行いを省みる者は若干弱気になり、その様な事を一切考えない者は他人を責めてばかりでどんどん強気になる。例え映画の中とは言えども、モラル・マナー・法律を一切無視して生きていく者に怖いもんなし、みたいな話にはなかなか共感できません。だからこそラストが痛快で良い。車は1台パァにしているし、帰りもどうするんだという所ですが、このすがすがしさは何だろう?もうヘトヘトな筈なのに、見えない敵に勝利して軽くジャンプをする主人公は子供の様に無邪気です。いずれにしても敵が見えないという状況が、如何に窮屈で精神的ストレスを与えるものなのかという事を考えさせられました。