他人様の夢の中で右往左往【インセプション】映画感想
原題:INCEPTION/上映時間:148分/製作年:2010年
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 脚本:クリストファー・ノーラン
- 撮影:ウォーリー・フィスター
- 美術:ガイ・ヘンドリックス・ディアス
- 出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ=ゴードン・レビット、エレン・ぺイジ、キリアン・マーフィー、トム・ハーディー他
【あらすじ】
未来では他人様が寝ている間にその夢の中に潜り込み、アイデアを盗む企業スパイが活躍していました。コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、その中でも凄腕のスパイで、国際指名手配犯として追われる身となっています。更にコブは自分の妻の殺害容疑も掛けられています。そんな折コブは、サイトー(渡辺謙)からこれまでに経験した事のない仕事の依頼を受けます。それは人の寝ている間にアイデアを盗むのではなく、植え付ける「インセプション」というもの。これを引き受け成功すれば殺人容疑を抹消してもらえる上に、子供達とも会う事が出来る。迷った挙句、新しい試みに挑戦するコブですが・・・。
【感想】ネタバレします
劇中で渡辺謙は「斉藤」でも「さいとう」でもなく、「サイトー」と呼ばれています。そこがちょっと面白かったです。
この作品は『パプリカ』と酷似している事で有名ですが、すいません『パプリカ』を観てません(汗)。
監督は、『プレステージ』、『インターステラ―』などのクリストファー・ノーラン。SF大好きで、CGをあまり使わない監督としても有名です。
主役のコブを演じるのはレオナルド・ディカプリオ。この他にもジョセフ・ゴードン=レヴィットやキリアン・マーフィー、トム・ハーディーらが出演しています。
ターゲットとなる人を眠らせてそこに犯罪者チームが潜っていく、というアイデアが非常に良いと思いました。私自身の好みとしては、一番最初に潜った階層の映像が一番好みです。雨が降っていて路面を電車が凄い勢いで走っていて、犯罪チームたちはそこで右往左往します。最後の方の雪景色のスキーアクションシーンは、007を明らかに意識した作りになってるなと思いました。
時間が無くなるとまた誰か一人が眠り、更に深い階層へ潜り込んでいく斬新な作戦で時間稼ぎをしていくイケメン犯罪チーム。この発想には1本取られたなという感じです。この仕事の依頼者であるサイトー(渡辺謙)もチームに参加します。大企業のトップなのに大変ですね・・・。同じ日本人だからかも知れませんが、どうも気になって渡辺謙ばかり目で追ってしまいます。(2014年のハリウッド版ゴジラの時も、そうでした。)
それとこのチームの人達はなんだかんだで、へまをする事が多いです(笑)。豪華キャストと一流スタッフで制作されたSF超大作でありながら、何処かしらジャンル映画の臭いがするのはそのせいかも知れません。また未来の犯罪者という設定だからかも知れませんが、つるっとしたイケメン揃いで怖そうな人が1人もいません。
「キック」で夢から覚めるっていうのは、普段落ちる夢を見た時に蹴る感じに似てるなと勝手に解釈しました(笑)。また今ここで起こっている事は現実なのか否かを判断する時、コブはコマを回します。日常的に言えばこれは、夢の中でほっぺたをつねるのに似てる気もしなくはないですが。今ここにある世界が現実かどうかが分からない系の映画は、観終わった後も頭の整理が出来ず、チンプンカンプンになるのですが、なんだかんだ言って興味が湧き、結構観てしまいます。
今生きている世界が夢やイメージで作られた世界なのか、現実なのか分からない作品は『トータル・リコール』や『惑星ソラリス』などがありますが、インセプションの場合、夢の中で更に夢を見るので複数階層の世界が出来上がり、そこがややこしくも魅力的に感じました。
とにかく映像表現がスタイリッシュなので、それだけでも十分に観る価値はあったかなと思います。
今度のノーラン監督の新作『ダンケルク』の予告編です。
日本での公開は2017年9月9日です。
火星でサバイバル【オデッセイ】映画感想
オデッセイ
原題:The Martian/上映時間:142分/製作年:2015年
- 監督:リドリー・スコット
- 原作:アンディ・ウィアー
- 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
- 出演:マット・デイモン、ジェシカ・ジャステイン、クリステン・ウィグ他
【あらすじ】
火星での有人探査の最中、嵐に巻き込まれてしまったワトニー。仲間たちは緊急事態を脱するため、死亡したと推測されるワトニーを置いて探査船を発進させ、火星を去ってしまう。しかし、奇跡的に死を免れていたワトニーは、酸素は少なく、水も通信手段もなく、食料は31日分という絶望的環境で、4年後に次の探査船が火星にやってくるまで生き延びようと、あらゆる手段を尽くしていく。
【感想】完全ネタバレ
実話ではないですが、諦めない事の大切さを教えてくれる映画だと思います。
監督は『ブレード・ランナー』や『エイリアン』、『悪の法則』など数々の素晴らしい作品を生み出してきたリドリー・スコットです。本作『オデッセイ』はリドリースコット監督作品の中でも、より多くの人に好まれる作品ではないかなと思います。
原作はアンディ・ウィアーの『火星の人』。この日本の小説のタイトル、そっけなくてシブいと思います。どうでもいい話ですが、私はつい最近までこのアンディ・ウィアーって人が、女の人だと思い込んでいました(笑)。こういう勘違い結構あります。主演はマット・デイモン。『インター・ステラー』では悪役でしたが、今回はいい人の役です。
火星に1人取り残されてしまったマーク・ワトニー(マット・デイモン)。折れたアンテナが刺さったって、どんな不遇なんだろうと思います。しかも仲間は帰ってしまっていて、一人ぼっち。火星に1人取り残される事は、飲み屋に取り残されるのとは訳が違います。取り残されたと言う事実は「死んだ」と判断されたからある訳で、それ自体がとても悲しい事なのですがめげません。おそらくそんなことぐずぐず思っている暇はない、という事なのでしょう。
『オデッセイ』はSF作品としても大変優れていると思いますが、如何にサバイバルするか?というテーマとしても楽しむ事が出来ると思います。
また絶望的な状況の中、マーク・ワトニーがあの手この手を尽くして生き延びようとする姿を観ていると、何だかちょっと賢くなった気になれるのも良いですね。幸いにも生物学者であった彼は、ジャガイモを育て始めます。シロートならあの環境で、ジャガイモを作る事が出来る!とは思わんでしょ。自分が得意とする専門的な分野で、苦境と立ち向かって行こうとする姿勢は大切だなと思いました。専門的な知識があれば、無理だと思っている事も、案外出来るものなのですね。日常生活の中で出会う数々のピンチや不遇も、無意識の内に自分で出来ないとか、無理だとか勝手に決めつけているのではないかなと思いました。
またワトニーは火星にたった1人取り残されているにも拘らず、ジョーダンとかをバンバン言って全然めそめそしていないんです。正に「笑う門には福来る」です。決して神頼みではなく、実力とユーモアで乗り越えようとする。「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」ってことわざを思い出し、何となくホッとしました。
更に絶望的な状況の中、70年代のディスコミュージックが流れるのも、これまでにない感じで良いです(笑)。そして次第に物事が上手くいき始め、地球や仲間からの援助も得る事が出来そうな時、良いタイミングでかかるデヴィッド・ボウイの「スターマン」が泣けます。この曲以前から結構好きだったのですが、この映画のおかげで更に好感度がUPしました。
何かにくじけそうになったら、また鑑賞したい作品だと思います。
夫婦間の闇の部分を直視させられる【ゴーン・ガール】映画感想
ゴーン・ガール
原題:GONE GIRL/上映時間:149分/製作年:2014年
監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:ギリアン・フリン
脚本:ギリアン・フリン
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス
【あらすじ】
幸福な夫婦生活を送っていたニックとエイミー。しかし、結婚5周年の記念日にエイミーが失踪し、自宅のキッチンから大量の血痕が発見される。警察はアリバイが不自然なニックに疑いをかけ捜査を進めるが、メディアが事件を取り上げたことで、ニックは全米から疑いの目を向けられることとなる。
【感想】完全ネタバレ
『ファイト・クラブ』『ソーシャル・ネットワーク』などで有名なデヴィッド・フィンチャー監督が、新たな扉を開いた衝撃のサスペンスです。原作はギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』です。
この作品を観て「女は怖い」という感想を持った男性は多い筈。同姓の私から見てもかなりの恐怖感がありました。でも基本的にはコメディなので、笑い所もたくさんあります。
これまで共に生活をして、何となく気を許していたつもりの配偶者が、突然別の顔を見せる瞬間。しかもこれが以前から周到に計画された事であると分かった日には、言葉も出ませんね。 ミステリーというかホラー、でもやっぱりコメディって感じです。
主演はベン・アフレック。彼の妻役を演じたのはロザムンド・パイクです。彼女が超名演技を披露したので、当時はアカデミー賞の主演女優賞を獲るのではないかと言われていました。
5年目の結婚記念日に突然姿を消したエイミー(ロザムンド・パイク)。当然旦那であるニック(ベン・アフレック)は慌てます。キッチンにはエイミーの血痕らしきものがあり、ニックは更に動揺します。ニックはすぐに警察に連絡し、エイミーの捜査を依頼します。公開捜査では行方不明になったエイミーは、児童文学「完璧なエイミー」のモデルであったと世間に知らされます。
私が思うにこのエイミーの両親はどうかなと思います。「完璧なエイミー」ってタイトルの児童文学で金儲けするは、娘であるエイミーにプレッシャーをかけるわで、完璧に毒親ですね。挙句の果てには娘が行方不明になったからと言って、派手派手しいやり方で捜査の依頼をしてました。もちろんなるべく多くのメディアを使って捜査する方が良いとは思うのですが、この両親の持つ雰囲気がちょっと・・・です。
捜査が進むにつれ、実はニックが犯人ではないか?と観ている人を惑わす様な仕掛けになっています。ベン・アフレックが持つ独特の、ちょっとぼんやりしてて何考えてるのかよく分からないキャラが上手く活きています。更には犯人は誰なのか?というミステリーに展開していくのですが・・・。
ところが通常のサスペンスであれば最後に来るはずのどんでん返しが、何故か映画の半分ぐらいの所で起こるというショッキングな展開。これは新しいですね、以後はほとんどエイミーの視点で語られていきます。
エイミーがニックにとった態度はいかがなものかとも思いますが、泣き寝入りしてあのままにしておくよりはマシなのかも知れません。彼女は彼女なりに大人の女性として、ニックにこれまでにはない態度を示した訳ですから、ある意味では勇敢です。ただやり方は、とても褒められたもんじゃありません(笑)。
都合の悪い事はバレるし、エイミーのペースにどんどん巻き込まれていくし、でタジタジになっていくニック。エイミーにも想定外のピンチがやって来るのですが、全然めげません。元彼デジーを上手く利用して、難を逃れていきます。あり得ない男女間のパワーゲームを見せられて、それにどんどん引き込まれていく感じです。
エイミーが金持ちの元彼の別荘で防犯カメラに向かってした行為には、爆笑してしまいました。鑑賞する人を選ぶ作品ではあると思いますが、夫婦間の闇を描いた傑作だと思います。
地球と瓜二つの星【アナザープラネット】映画感想
アナザープラネット
原題:Another Earth/上映時間:93分/製作年:2011年
監督:マイク・ケイヒル
脚本:マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング
出演:ブリット・マーリング、ウィリアム・メイポーザー他
【あらすじ】
17歳で名門大学MITに合格した秀才少女ローダは、ある夜、不思議な惑星が空にあるのを目撃。気を取られるあまりに衝突事故を起こしてしまい、妊婦と子どもが亡くなってしまう。4年の刑期を経て出所したローダは、謝罪しようと被害者遺族の夫ジョンの元へ出向くが、本来の目的を話せずつい身分を偽ってしまう。そして清掃会社のスタッフとしてジョンの家へ定期的に通うことになるのだが、例の不思議な惑星が、同じ人間が存在する“もう一つの地球”であることを知ってしまい…。
ANOTHER EARTH trailer 2011 official movie
【感想】完全ネタバレ
異星人とのコンタクトもの『コンタクト』(ジョディ・フォスター主演)の様な作品かと思い鑑賞してみましたが、全く異なった作品でした。
本作は2011年のサンダンス映画祭で、特別審査員賞を受賞しています。
主人公のローダ(ブリット・マーリング)は自らが犯してしまった重大な過ちを謝罪しようと、ジョン(ウィリアム・メイポーザー)の家を訪ねるのですが、本当に言わなくてはいけない事がどうしても言い出せません。かつては家族と幸せに暮らしていただろうジョンの家は、荒れ果てていて本人も廃人の様になっていました。そこでローダはついつい「自分は清掃会社のスタッフだ」と言ってしまうのです。その精神状態は、私には到底理解出来ないなと思いました。
ローダの事をただの清掃スタッフだと思っているジョンは、次第にローダに心を開き、気を許していきます。目の前で部屋を綺麗にしてくれる女性が自分を苦しめた相手だとも知らず、徐々にローラに恋をしていくジョン。この姿を観るのは痛々しくもあり、同時にハラハラします。バレたらどうするんだ?とか、何で最初から打ち明けなかったのか?とかいちいち思いました。
それと同じ頃、地球とそっくりの惑星が存在する事が話題になり、世間を騒がせていました。ローダも、もう一つの地球の存在を知り興味を持つ様に。取り返しのつかない事をしてしまったローダにとって、他の星へ行くリスクなど存在しないも同然。作文を書き一般人からの募集に応募するも、見事に選ばれしまいました。しかし今度はジョンがローダを愛してしまい、もう一つの地球には行かないで欲しいと言い出したのです。ローダはついに、本当の事を打ち明けます。ジョンはそれに対して激怒。二度と来ないでくれと言われます。やはりそうですよね・・・。
結局二度もジョンを傷つけてしまった事に酷く落ち込むローダですが、ある事に気付きます。それはもしも地球そっくりな惑星であっても、第二の地球ではジョンの家族が無事に生きている可能性がある事。それは二つの惑星がお互いの存在を認識し始めたから、ある時点から別々の出来事が起こっている可能性があるという仮説によるものです。
ローダは嫌がるジョンに無理矢理会おうとして、もう一つの地球に行くチケットを渡します。もしもこれが上手くいくなら、ジョンに対して最高の償いが出来るという訳ですね。この事からすれば、何でも成行きに任せてやってみるものだなと、無責任にも思いました。
ただここで一つ疑問なのは、もう一つの地球で家族が無事暮らしていたとして、ジョンが二人になっちゃうんじゃないかって疑問が湧いてきました。他のSF映画を観ていても思いますが、同じ人間が二人いるのって想像以上に厄介ですよ。ただ夫であるジョンは非常に家族思いの様なので、遠くからひっそりと見守る覚悟だったのかも知れません。
しばらくして、ジョンは第二の地球に旅立ちます。
謎のラストシーンは、幾通りにも解釈が出来ると思います。他の星からもう一人のローダがやってきたと言う事は、どういう事なのか?を私なりに考えてみました。
まず一つ目は、向うの惑星でも似たような事が起こってしまっていたと考えられます。しかしあっちのローラは、ジョンと恋仲に落ちずにすんなり謝罪。その後作文を書いて選ばれ、地球にやってきたという説。もしもそうでないのなら、ローダの人生は万事順調に事が進んでいる筈であり、まさか別の星に行こうとは思わないでしょうから・・・。
二つ目は向うのローラとこちらから行ったジョンが何らかの形で接触を持つ事が出来て、地球のローラに何か伝言を伝えに来た。例えば向うではジョンの家族が、元気に暮らしている事など。これだとハッピーエンドですが、少々無理がある様な気がしなくもないです。
そして三つ目の解釈は、向うでも同じ様な事は起こってしまっていたが、地球から第二の地球に行ったジョンが、向うのローラに地球行きのチケットをプレゼントした。こんな事はまず有り得ないでしょうが、私はこの解釈であれば良いなと思っています。
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2012/03/16
- メディア: Blu-ray
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
大人も子供も楽しめる内容【ズートピア】映画感想
ズートピア
原題:ZOOTOPIA/上映時間:108分/製作年:2016年
【監督】バイロン・ハワード、リッチ・ムーア
【声の出演】ジニファー・グッドウィン、ジェイソン・ベイトマン、イドリス・エルバ他
【日本語吹き替え版の声の出演】上戸彩、森川智之、三宅健太、村治学他
【あらすじ】
どんな動物も快適な暮らしができる環境が整えられた世界。各々の動物たちには決められた役割があり、農場でニンジン作りに従事するのがウサギの務めだったが、ウサギの女の子ジュディは、サイやゾウ、カバといった大きくて強い動物だけがなれる警察官に憧れていた。警察学校をトップの成績で卒業し、史上初のウサギの警察官として希望に胸を膨らませて大都会ズートピアにやってきたジュディだったが、スイギュウの署長ボゴは、そんなジュディの能力を認めてくれない。なんとかして認められようと奮闘するジュディは、キツネの詐欺師ニックと出会い、ひょんなことからニックとともにカワウソの行方不明事件を追うことになるのだが……。
【感想】完全ネタバレ
ウサギのジュディ・ホップスは、数々の試練を乗り越えて憧れの都市【ズートピア】の警察官になる事が出来ました。折角ズートピアにやってきたジュディですが、任された仕事は駐車違反の取り締まり・・。がっかりしたジュディが、一人暮らしのアパートで【おひとり様ニンジン】を食べるシーンは切ないです。しかしうさぎは警察官に向いていないという偏見と戦いめげないジュディ。そんな時アイスクリーム屋の前で、怪しいキツネ「ニック」を見つけます。
この作品が面白いなとまず思ったのが、ジュディとニックが出会うシーン。ジュディは良い事をしたつもりになるのですが、実はこれがまんまと騙されていた。ニックらは子供にアイスクリームを買ってあげたい可愛そうな親子の演技をして、ゾウやジュディを騙し、ジュディに代金まで支払わせた。ゾウサイズの大きなアイスクリームを溶かし、小さな型に流して小動物に売って稼ぐ。これがニックの商売でした。ズートピアの悲しい現実を見た気がします。
そんな時ジュディに、動物失踪事件を捜査する仕事のチャンスが来ます。それはカワウソの旦那さんが行方不明になったので、探して欲しいという内容のもの。但し捜査が許されるのは48時間だけです(笑)。是が非でも犯人を捕まえたいジュディは、詐欺師であるニックを半ば脅して、協力を求めます。
カワウソが乗っていた車のナンバーを知った二人(二匹)は、その車の持ち主を調べてみる事に。ニックに紹介されて車のナンバーを調べてくれるのは、ナマケモノのフラッシュ。ここは職員が全員ナマケモノで、仕事が想像を絶するぐらい遅い(笑)。彼にジョークを言っても、笑いだす前に1秒程度止まる、タイミングの合わなさが堪らなく良いです。ちなみにフラッシュの日本語吹き替えを担当しているのは、村治学さんです。
そして本作のメインの出来事である肉食動物失踪事件の謎が、徐々に明らかになっていく下りでは、うさぎのジュディがうっかり「凶暴化した動物は全て肉食動物で、野生の本能が目覚めたせいでは?」とインタビューで発言しまいます。その言葉に傷つきジュディと絶交するニック。「えーっ」って思いましたが、このありきたりではない展開が良かったです。ジュディは自分自身でも気づく事が出来なかった、己の内面を知り落胆します。
そんな時、ある植物が動物を凶暴にさせる事を知ったジュディ。その花は「夜の遠吠え」という名の物で、これを食べると草食動物であっても凶暴になります。ジュディは急いでニックにその事を伝え、謝罪します。自分のした過ちに気付き、懸命に責任を取ろうとするジュディ。偉い。晴れてニックと仲直りをし、事の真相を掴むべく物語はクライマックスへと向かいます。
結局黒幕だったのは、市長に成り上がったヒツジのベルウェザー。肉食動物=凶暴というイメージを住民に植え付けて、自分ら草食動物のカブを上げようとしていたのです。「恐怖で支配してやる」的な彼女のセリフにはさすがにイラッとしましたが、同時にゾッとしました。一見穏やかそうに見せかけておいて、本当に卑怯だなと思います。
ニックの好演技のおかげもあり、ヒツジのベルウェザーの悪行が世間にバレて、一件落着。めでたしめでたし。野生化していたかわうその旦那さんが、元の優しい夫に戻るシーンが泣けます。そしてラスト、ニックとジュディが時速185kmのスピード違反を取り締まりに行くと、運転席にはナマケモノのフラッシュが乗っていた(笑)のが良いです。
それぞれの個性が認められ、多様化された社会の素晴らしさを生き生きと映し出すと同時に、それらを維持していく事がそうそう簡単ではない事だと感じ取れる作品でした。今抱えている様々な問題に対して「現実はこんなもんよ」と、すぐに諦めない事の素晴らしさが描かれた作品だと思います。
プレステージ【映画感想】完全ネタバレ
プレステージ
原題:The Prestige/上映時間:130分/製作年:2006年
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 原作:クリストファー・プリースト
- 脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ノーラン
- 出演:ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、スカーレット・ヨハンソン、レベッカ・ホール、デヴィッド・ボウイ他
【あらすじ】一部ネタバレ
舞台は19世紀末のロンドン。アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)という若き手品師達がいました。2人はマジックの助手をやりながら、互いの腕を競い合っていました。そんなある日、水槽脱出マジックのミスでアンジャーの妻が溺死します。紐を結んだのはボーデンでした。この悲劇的な出来事を境目に、アンジャーはボーデンを憎む様に。アンジャーはボーデンのマジックショーを邪魔したりして、徹底的に嫌がらせをし過去の恨みを晴らそうとします。
https://www.youtube.com/watch?v=WhAXMC6ZiU4
【感想】完全ネタバレ
マジックを題材にした映画作品になかなか興味が持てなかったのですが、想像していたよりもはるかに面白く鑑賞する事が出来ました。マジシャンのトリックなども明かされるので、マジックに興味がある方にはお薦めです。私は子供の頃からテレビなどでマジックショーを見ると、何故か物悲しくなったりしていたのですが、この作品を観る事でその理由が解った気がしました。しかし後で冷静に考えると19世紀が舞台ですから、現代とはトリックなど随分やり方も違っているのかも知れないです。
この作品は1度観終わった後、またすぐに見返したくなる映画です。この手のマジック・超常現象ものと同様に、最後に大きなどんでん返しがあります。『グランド・イリュージョン』の様な高揚感はないですが、表面的には拍手喝さい浴びていながら、裏では涙ぐましい努力や隠し事をしているマジシャン達の姿が描かれています。
本作を未見の方は、ここから先は鑑賞後お読みになる事をお薦めします。
ここから先完全ネタバレ
大どんでん返しのボーデンが二人いる件ですが(いきなり結論)、この二人は性格が全く違うので、コピーじゃなく双子ではないかと思います。サラを愛していたボーデンは優しく、マジックのトリックに固執したボーデン(ファロン)はアンジャーの助手であったオリヴィアを愛していました。もしもコピーなら、こんなに性格が違うって事はあり得無いのでは?と解釈したのです。ただコピーであっても育った環境によって、性格が変わる事はあり得ますね。謎です。
私は一度目の鑑賞の時からボーデンが二人いるのではないかと、内心密かに疑っていました。それはボーデンの奥さんサラ(レベッカ・ホール)が言う「今日はウソ」って言うセリフからです。それが妙に気になり「まさか二人いるのでは?まさかね・・」って思って鑑賞していました。しかしこれが本当に二人いたとは。マジックの最中だけでなく、人生に於いて、周囲の全ての人をだまし続けなければならない苦悩は半端ないと思います。
しかしそれよりも私が驚いたのは、アンジャーがテスラの装置でマジックの度に毎回自身のクローンを作っては、自分は死んでいた事。恐ろしい。人気を維持する為にここまでやるとは。いくら科学の技術があったって、並大抵の精神力じゃこれは出来ませんよ。
この二人、本当にどうかしてる(正確に言えば3人)。 よってアンジャーにもボーデンにも、感情移入出来ませんでした。
不気味だけど印象深くて好きなシーンは、天才科学者ニコラ・テスラ(デヴィッド・ボウイ)の転送装置が複製装置だと分かった瞬間。庭にシルクハットが大量に落ちているシーンは絵的にかなり不気味です。ミステリーにSFっぽい要素が加わり、本来なら興ざめする所ですが、他のシーンとイマイチ馴染まないアンバランスな感じが良いと思いました。この唐突な感じは、何処かリンチっぽいです。テスラの屋敷の室内も、19世紀の雰囲気が感じられません(笑)。
とは言えやはり本作最大の謎は、本当にボーデンは双子なのか?テスラの装置を使ったのではないかと言う事。多くの人がボーデン双子説とボーデンコピー説を唱え意見が分かれているみたいですが、考えるとややこしくなったので考えるのを止めました(笑)。一度原作を読んでみたいと思います。
映画感想【バベル】ネタバレあり
バベル
原題:BABEL/上映時間:143分/製作年:2006年
- 監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
- 脚本:ギジェルモ・アリアガ
- 音楽:グスターボ・サンタオラヤ
- 出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、アドリアナ・バラッザ、役所広司、菊池凜子、他
【あらすじ】一部ネタバレ
モッロコ住んでいる山羊飼いのアブドゥラは、知人から銃を買った。アブドゥラは子供達に銃の使い方を教える。山羊に近づくジャッカルを追い払う為だ。息子であるアフメットとユセフは互いに銃の腕を競い合うが、弟の方が銃の腕ははるかに上だった。兄が弟に遠くを走っている観光バスを指さして、「あのバス撃てるか?」と言う。まさか当たるとは思っていなかったが、これが見事に命中してしまう。一瞬ポカンとする兄弟2人。しかしこれが悲劇の始まりだった・・・。
【感想】ネタバレあり
本作『バベル』はモロッコ・アメリカ・日本・メキシコを舞台に、様々な人々にスポットライトがあたる群像劇。意外な所からトラブルが発生し、そこか!と観ているこちらまで、意表をつかれたような気分になる映画です。内容的にはダークで暗い気分にさせられますが、映画としてはとても面白い。でも娯楽作品という感じではないですね。
また本作は第79回アカデミー賞で、作曲賞を受賞しています。
監督は『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント: 蘇えりし者』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、日本からは役所広司、菊池凜子らが出演しています。
【モロッコ 】旅行中のリチャードとスーザン
夫婦であるリチャード(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)は3児を失くしてしまった悲しみから、互いの仲を修復させるべくモロッコへ旅行に来ています。そんな時何故モロッコへ?と思いましたがそれを聞くのは野暮というものでしょう。アメリカへ残してきた二人の子供は、ベビーシッターに任せています。
【モロッコ】アブドゥラとその子供達
山羊を追い払う為の銃で、うっかり観光バスを射撃してしまった兄弟は暗い気持ちで帰宅します。ところが街に買い付けに行った父親は、いつもより帰宅が遅い。ようやく帰ってきた父親アブドゥラは、「どうやらテロリストの仕業で、観光バスに乗っているアメリカ人が撃たれた」から遅くなったと言います。それを聞いて更に暗い気持ちになる兄弟。
【日本】チエコとヤスジロー
親子二人暮らしで、高級そうなマンションに住んでいるチエコとヤスジロー。母親の自殺以来寂しい毎日を強いられるチエコ。チエコは聾亜である疎外感を感じながらも、めげる事無く、街へ出掛けていきます。
【アメリカ】アメリアとリチャードの子供達
代わりのベビーシッターが見つからなかったという内容の電話をリチャードから受け、困惑するアメリア。その日は息子の結婚式だったので、幼い子供二人を連れてメキシコへ向かう。
この様な具合に場面が次々と切り替わり、ストーリーが展開していきます。
繋がっていない様で繋がっている、モロッコ、アメリカ、日本、メキシコのそれぞれの物語。ショックだったのは、特に途中まで順調そうに見えたメキシコのベビーシッターアメリアのストーリーが、一転二転と転がる様に悪化していく事です。こんな事ってあるのか!と砂漠の恐ろしさを知りました。
バベルと言う言葉を調べてみると【神の門】や【混乱】などの意味がある様です。またあの【バベルの塔】の逸話を連想させられます。
だから要はディスコミュニケーションの話かなと思った訳です。日本用に作られたポスターのキャッチコピーも「届け、心」でした。
確かにこの作品を観ていると、言葉が伝わる者同士のコミュニケーションが取れていないです。異国人同士で言葉が伝わらなくてもどかしいシーンもいくつかありますが、果たして共通言語さえあればこの問題は解決するのかなと思いました。
例えば登場人物達は、毎日顔を合わせ共に生活をしている人とのコミュニケーションが取れていない様に見えます。モロッコの山羊飼いの兄弟は常に行動を共にしながら、何処かいがみ合っている雰囲気。またリチャードとスーザンの旅行は、リチャードが一方的に計画した様に見えます(冒頭の二人の会話がギクシャクした感じ)。また日本でのヤスジローとチエコの日常的なやりとりも、何処かギスギスしています。更にチエコが本当に大切な事をメモで伝えたのは、手話が通じない警察官の男。優しい彼はチエコの気持ちを理解していたのだと思いました。
映画の終盤あたりでハッとしたのは、スーザンがようやく病院に入ることが出来た後に、ブラピがベビーシッターであるアメリアに電話を掛けていた事。てっきり同じ時間軸で場面が切り替わっていたと思い込んでいたのですが、そうではなかったのですね。同じシーンを別の角度から時間差で見せられる事によって、一瞬動揺しました。こういうクラクラする感覚、堪らないです。
二度か三度字幕版で鑑賞したのですが、出来れば日本語吹き替え版でも観てみたいです。新たな発見がありそうなので。感想を一言で言ってしまえば「良く分からないけど凄い映画」(笑)。でも一度見たら絶対に忘れられない作品だと思いました。