映画感想【IT/イット “それ”が見えたら、終わり。】ネタバレあり
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
原題:IT(IT:chapter one)/上映時間:135分/製作年:2017年
監督:アンディ・ムスキエティ
原作:スティーヴン・キング
出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリス、ジェレミー・レイ・テイラー他
【あらすじ】ネタバレあり
1988年、アメリカの田舎町デリー。町では子供ばかりが行方不明になる不可解な事件が続いていた。ある日、内気で病弱な少年ビルの弟ジョージーも1人で遊んでいる時に何者かに襲われ、道端の排水溝に姿を消してしまう。以来、弟の失踪に責任を感じていたビルはある時、見えるはずのないものを見てしまい恐怖に震える。やがて、眼鏡のリッチーや悪い噂のあるベバリーなど同じような恐怖の体験をしたいじめられっ子の仲間たちと協力して、事件の真相に迫ろうとするビルだったが…。
【感想】完全ネタバレ(1990年のITもネタバレします)
スクリーンから3Dの様に過剰に飛び出してくるピエロに、不覚にも笑ってしまいました。
続編の撮影も終了した様です。2019年公開予定の後編を楽しみにしていらっしゃる方は、1990年の方のITにも触れますので、ネタバレにご注意下さい。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のタイトルについて、正しいとか間違っているとか賛否ある様ですが、私はアメリカの鬼ごっこ事情に詳しくないのでどちらが良いのかよく分かりません。しかしIT、イット、それと3回もしつこく言う必要が何処にあったのだろうかとは、考えてしまいます。
あえて一言言わせてもらうなら、字間がバラバラで見た目がスッキリしないのが気になる(笑)。またむやみやたらに記号(/“”、。)が入り、全く情報が整理されてない感じのタイトルに、脱力感を覚えざるを得ませんでした。
でもこのタイトルで日本でも大ヒット。多くの人に観てもらうという目的は、しっかりと果たせた訳です。自分もそれに飛びついたの中の1人。続編はどんなタイトルが付くのか、楽しみです。
原作はスティーヴン・キングの1986年のホラー小説『IT-イット-』。この作品は過去1990年にも、テレビ映画として映像化されています。アメリカでは前編、後編と2週に分けて放映された様です。こちらは大人になったルーザーズクラブのメンバーの回想シーンとして、彼らの子供時代が描かれるスタイル。前編は主に子供時代、後編は大人になってからの彼らが描かれます。
ちなみに日本での初回放送時を調べてみると1994年、タイトルは『イット 恐怖の殺人ターゲット・復讐の悪魔』とありました。これリアルタイムで観てなかったです。こちらは1話にまとめたものが、放送された様ですね。
『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』の方の監督は2014年公開『MAMA』というホラー映画で注目を浴びた、アンディ・ムスキエティ。
この映画は観た事ないのですが、何か凄いインパクトのある予告編です。ちなみにアンディ・ムスキエティは、『進撃の巨人』ハリウッド実写版の監督を務める事がこの間、発表されました。
と言う訳でIT イット “それ”が見えたら、終わり。。作品自体は怖いと評判でしたが、観終わった感想としてはキング原作の中ではそんなに怖くない方ではないかと。やっぱりキングならミストやミザリーの方が、断然怖かったです。
本作品はどちらかと言うと、スタンド・バイ・ミー寄りの青春モノホラーという印象です。よって思いっきりホラーが見たい時に観ると、肩透かしを食らうかも知れないです。また鑑賞する時の心理状態によって感情が、恐怖か?感動か?どっちにブレるかが違ってくるのではないかと思いました。
前編は特に可愛らしい子供達の心の成長が描かれ、さわやかな終わり方をしています。しかし後編の作品の雰囲気は、これとはがらりと変わるのかも知れないと思いました。ラストシーンでルーザーズクラブの人達が、次々にスクリーンから去っていく。この順番が後編に反映されるとかされないとか。
個人的には正直、冒頭のシーンが一番怖かったです。道路脇の排水溝から、ひょっこり顔を出す不気味なピエロ。主人公のビルは体調不良で寝込んでいる時、弟のジョージ―を一人で外出させてしまいました。ビルは弟のジョージーが行方不明になって以来、その事ばかり考える日々を送っています。
学校では不良のヘンリーらに怯え、その上この町では子供が行方不明になる事件が相次ぎます。ついこの間もベティという少女が、行方不明になったばかりでした。ビルの仲間はリッチー、スタンリー、エディ。4人はこの怯える様な環境下、それなりに仲良く楽しくやっていてけなげです。彼らはルーザーズ・クラブ(負け犬チーム)と呼ばれています。このネーミングが良いですね。
そこにそれぞれの事情で孤独なベン、べバリー、マイクが加わります。若い頃気の合う仲間に出会えた時の、ワクワクする感じが伝わって来ました。
しかしこの子供達は皆家庭に問題があったり、それぞれ事情を抱えていて不安や恐怖で一杯です。田舎町ですが大人達もいじめを見て見ぬふりをしたりして優しくないし、何となく治安も良くない。
例えばベンは転校して来たばかりでこの町に馴染めていない上、ややふっくらとした体型から不良達のイジメのターゲットにされるのでした。べバリーもまた可愛らしい女の子なのですが父親と二人暮らしで、性的な虐待を受けていました。その上彼女は学校で、変な噂をたてられてしまいます。そんなある日べバリーから声を掛けられたベンは、あっさりと恋に落ちました。
ルーザーズ・クラブの彼らが共通して遭遇しているのが、ペニーワイズという名のピエロ。ペニーワイズは誰にでも見えると言う訳ではなく、何となくこういう心に闇を抱えた子供にしか見えません。またそれが幻覚なのか現実なのかが分からない。
そうこうしている内に皆がそれをカミングアウトし始め、ビルはジョージ―を襲ったのはきっとペニーワイズだと言います。そこで皆はペニーワイズの住家である、井戸の家に行きます。次なる犠牲者を出さない為です。
しかしそこでエディが腕を骨折。エディの過保護な母親はカンカンに怒り、ビル達に「もううちの子と遊ばないで」とキレます。しかしその後エディは、親からいつも喘息で持たされている薬が、実は全く意味の無い物だと知ります。彼は喘息ではなかった。
母親を振り切り、仲間の元へ戻るエディ。7人は再び勇気を振り絞り、井戸の家に突入します。無力で純粋な子供達の恐怖が、ペニーワイズの餌になる。ルーザーズ・クラブは恐怖を持たなければ、ペニーワイズは死に絶えると気付き戦います。だんだん強くなっていく彼らを見ると、気分がスカッとしてきてました。
1990年のITよりも、ペニーワイズが恐怖心のメタとして描かれているのが新鮮でした。また子供達にとって最も怖いのは、この町の支配的な大人。現にべバリーの父親には、怪奇現象が見えません。またエディの母親の様に行き過ぎた過保護は、子供にとっては脅威でしかない様な気がします。
なぜ本作品がそんなに怖くないかと考えると、恐怖を表現しつつも、その恐怖心を克服する事をテーマとした作品だからではないか?と勝手に解釈しました。とても贅沢な作品だと思います。
また子供の頃を思い返してみるとさして苛められっ子だった訳ではありませんが、劇中に登場する不良チームを見るとイラッとします。弱虫チームが不良チームに石を投げるシーンが、特に良いと思いました。
【1990年版ITとIT イット “それ”が見えたら、終わり。の違い】
あのシーンが無い!などの違いを述べていったらキリがないですが、大まかに違うなと思った所を気付いた範囲で挙げてみました。
1.ペニーワイズのルック
これは単に好みの問題でもあると思います。ティム・カリーの演じたペニーワイズ(1990年)は相当な人気の様ですが、ピエロ自体のルックは2017年版の方が個人的に好みです。でも1990年版ITのクラウンの方が一見優しそうにも見えるので、そのギャップから生まれる怖さが味わえるかも知れません。
左が1990年ITのペニーワイズ、右が2017年のペニーワイズです。
2.リッチーのキャラクター
同じおしゃべり、お調子者のキャラでも、背の高さや声のトーンなどによって雰囲気が違ってくるなと感じます。2017年の方のリッチーは、フィン・ウルフハードという子役の男の子が演じています。こちらの方が声が高くて、お調子者感がよく出ていると思いました。彼は同じ時期にアメリカで放送されていたドラマ『ストレンジャー・シングス』にも出演していて、人気の様です。
3.風船の演出
1990年版ITのペニーワイズは、様々な色のバルーンを持っていますが、2017年の方ではバルーンの色が赤に統一されています。個人的な意見としては、赤い風船のみの方が怖い。バルーンがこんなに不気味に見えるとは!と思いました。規則的に不自然に並べられている分、非現実的で気持ち悪かったです。
画像引用:https://www.gizmodo.jp/2017/05/it-red-balloons.html
4.ストーリー構成
2017年版の前編は、ビル達の子供時代のみの話になっています。こちらは幼少期の話が、グッと凝縮されているので話が理解しやすい。また感情移入も容易な為、よりスタンド・バイ・ミー感が味わえるのではと思いました。1990年版の方は、7人の大人と子供が次々に登場する為、ちょっと情報過多気味ですね。スリルや情緒を味わう余裕もなく、人物を追ってしまう部分がありました。
5.怖さ
1990年版ITの方がホラー度は高いのではないかと思います。例えば2017年版のキレた時のペニーワイズの造形(笑)。あそこまで歯をむき出しにしてしまったら、もう不気味なピエロではなく怪物ですね。エイリアンとか、そういうヤツの仲間に見えてきました。確かにキャラクターとしては見応えがありますが・・・。それに対して旧イットのペニーワイズは静かな存在感を放ち、ただ笑っているだけでも結構怖いです。
6.恐怖の対象
1990年版ITではペニーワイズの正体が、実は巨大な蜘蛛のモンスターでした。正直このシーンはがっかりしたのですが、2017年版では恐怖の対象が、やや抽象的に表現されている様な気がします。子供にとって自分が何を恐れているのか明確ではない、こんなに厄介な事はないです。壁に掛けてある絵が怖いと言っても、その恐怖の実体は掴めないままです。皆おのおのそういうのを抱えていて「あえて言うならピエロが怖い」という共通点を見つけます。 そこであのピエロを倒そうと頑張り始めるのです。
これ以外にも子供時代のエピソードなど描かれている内容が、微妙に違っていたりします。エディの喘息の薬のエピソードは、新ITの方の描かれ方の方が好みでした。
2017年版ペニーワイズを描いてみたので、貼っておきます。
歯を剥き出しにした凶暴時のヤツの姿です(笑)。
後編が楽しみです。